医師免許を取得した人の多くは、医師として長く臨床現場に関わります。しかし、医師免許は、臨床医以外のキャリアにも活かせることをご存知でしょうか。
例えば、医師免許を活かせば製薬会社や保険会社、医療機器メーカー、医療系サービス企業などの民間企業や、省庁、地方自治体などで働くことも可能です。
本記事では、医師免許でできる仕事の一覧や、臨床医以外の職種を目指すメリット・デメリットを紹介します。
医師免許を取得したからといって、必ずしも臨床医になるわけではありません。医師国家試験の合格者の中には、民間企業や省庁、地方自治体などで活躍している人もいます。
ここでは、医師免許を活かせるキャリアの例として、以下の9点を紹介します。
メディカルドクターとは、製薬会社に所属する医師のことです。メディカルドクターの主な仕事は、新薬開発の臨床試験や市販薬の販売に関わり、薬の有効性や安全性を審査します。
メディカルドクターとして働くには医師免許が必要ですが、勤務体系は民間企業の会社員と同じです。臨床現場で働く医師と違って、当直やオンコール(待機)などの業務はありません。
そのため、ワークライフバランスを重視する人に向いているでしょう。
製薬会社は外資系企業が多いため、医師免許に加えて語学力がある方は採用面で有利になります。
保険社医とは、保険会社に所属していて保険業務に関わる医師を指します。医師免許のほか、2年程度の臨床経験があれば比較的簡単に転職することが可能です。
保険社医の主な仕事は、診査・引受査定・支払査定の3つです。
製薬会社のメディカルドクターと同様に、保険社医の勤務体系は民間企業の会社員と同じであるため、ワークライフバランスのとれた生活を送ることができます。
一方、保険社医は一般的な医師と異なる価値観が求められる職種のため、転職後に混乱する方が少なくありません。
臨床医は、患者ファーストで医療を提供しますが、保険社医は保険会社の利益が第一です。時には、顧客の健康状態を厳しい目で評価し、保険加入を断る判断をしなければならないことも知っておきましょう。
医師免許を取得した方によっては、省庁の技官(国家公務員)として働くケースもあります。代表的な例が、厚生労働省の医系技官です。
医系技官とは、人々の健康を守るために医師免許・歯科医師免許を有し、専門知識をもって保健医療に関わる制度づくりの中心となって活躍する技術系行政官のことを指します。(※)
具体的には、厚生労働省の本省のほか、所轄の研究所や検疫所、地方厚生局などに所属し、国民の健康を守るための法案・政策案・予算案の作成に関わります。医師としての専門性に加えて、行政官としてのスキルや多くの人と関わるコミュニケーション能力が求められる仕事です。
医系技官になるには、医師国家試験の取得に加えて、公務員採用試験の合格が必要です。採用までのハードルは高いですが、国家公務員としてやりがいのある仕事に関わることができます。
医系技官の他にも医師免許を活かせる公務員が、法務省の矯正医官です。法務省矯正医官の主な仕事は、矯正施設内に設置された診療所または病院の管理者として、被収容者の健康診断の実施や疾病に罹患した者に対する冶療です。(※)
他にも、施設内の衛生管理や専門医として全国から移送される患者の治療も行います。
つまり、犯罪者や非行少年が入所する矯正施設に所属し、被収容者の健康管理や感染予防対策を行うのが矯正医官の役割です。臨床現場に関わる仕事ですが、国家公務員であるため福利厚生が充実しており、育児休暇(育休)や時短勤務など、ワークライフバランスを実現する制度も用意されています。
また、公務員としては珍しく、副業が認められているのも矯正医官の特徴です。
臨床現場よりも解剖学や生理学、薬理学、病理学などの医学研究に興味がある方は、大学や研究機関の研究職として働く選択肢もあります。ただし、研究職といっても臨床現場で働きながら研究を行う臨床研究と、医学研究に専念する基礎研究の2種類があるため、しっかりとキャリアプランを考えましょう。
基礎研究の研究職は診療行為を行わないため、医学部の他にも理学部や薬学部、農学部、工学部などの出身者も活躍しています。
ただし、大学に所属して研究を行う場合は、大学院の修了がほぼ前提であり、かつ一定の研究業績が求められるなど、狭き門であることを知っておきましょう。
民間企業でキャリアを形成したい場合は、医療機器メーカーやヘルスケア企業に就職し、製品開発に関わる道もあります。大手企業や外資系企業、さらにはベンチャー企業まで企業規模はさまざまです。
開発職として活躍したい場合は、医療知識に加えて人間工学やソフトウェア開発、AIを始めとした先端テクノロジーなど、モノづくりに関わる幅広い知識が求められます。
医師の転職先として人気があるのが、民間企業の産業医です。産業医とは、企業で働く労働者の健康管理を担い、心身の健康をサポートする職種を指します。
労働安全衛生法は、常時50人以上の労働者を使用する事業場に対して、1名以上の産業医を選任することを義務づけています。(※)
通常の医師と異なり労働衛生に関する知識が求められますが、産業医は身体的な負担が比較的少ないのが特徴です。産業医として働くには、医師免許の取得のほか、医師会が定める講習の受講か労働衛生コンサルタント試験に合格する必要があります。
医師として臨床現場に関わりつつ自分のペースで働きたい方は、介護老人保健施設(老健)の常勤医がおすすめです。主な仕事は、入所者の健康管理や生活指導、医療ケア、リハビリテーションなどを通じて高齢者の在宅復帰をサポートすることです。
厚生労働省の基準により、介護老人保健施設は定員100名につき1名の常勤医を配置しなければなりません。(※)介護老人保健施設の常勤医は、一般的に当直やオンコール業務が少ない傾向があるため、身体的な負担が少なくゆとりを持って働くことができます。
そのため、定年を迎えた医師のセカンドキャリアとしても人気がある職種です。
公衆衛生医師とは、地方自治体の保健所や保健センターに所属し、市民の公衆衛生に取り組む医師を指します。主な仕事は、生活習慣病やがんなどの病気に関する啓発活動や、母子保健や子育て支援の推進、地域住民を対象とした生活指導などです。
専門的な医療知識に加えて、公衆衛生や予防医学に関する知見が求められます。地域の保険行政に直接関わることができるため、大きなやりがいが感じられる職種の一つです。
医師免許を持っていながら臨床医ではなく、それ以外の職種を目指す理由は、大きく分けて3つあります。
医師は長時間労働を強いられることが多く、激務による心身のストレスが大きくなりがちな職業です。令和元年度の厚生労働省の調べによると、週当たりの労働時間が80時間以上の医師がいる病院の割合は、大学病院で46%、救命救急機能を有する病院で49%となっています。(※)
平成28年度の調査と比べると医師の時間外労働時間は短縮されつつありますが、依然としてほぼ半数の病院で長時間労働が慢性化しているのが現状です。
仕事と子育ての両立など、医療分野での働き方改革も徐々に進んでいます。しかし、先んじて働き方改革に取り組む民間企業と比べて、まだまだワークライフバランスを実現しづらい医療機関も少なくありません。
激務を避けたい方や仕事とプライベートを両立したい方は、臨床医以外の職種を目指すことも検討しましょう。
医療事故や患者とのトラブルなどのリスクを嫌って、転職を検討する医師もいます。日本医療安全調査機構の年報によると、2021年の医療事故に関する相談件数は1,685件でした。(※)
その全てが医療事故と認められたわけではありませんが、人の命を預かる医師という職業である以上、患者の遺族や関係者からのクレーム対応が必要なケースもあります。
長時間労働による激務に加えて精神的な負担が大きいことから、医師免許を取得しつつ臨床医以外のキャリアを目指す人も存在しています。
医師免許を取得した人が臨床医以外のキャリアを目指す理由は、ネガティブなものばかりではありません。セカンドキャリアを切り開きたい方やキャリアアップを目指したい方が、異なる職種に転職するケースもあります。
現在の常勤先を辞める決心がつかない方は、副業や非常勤、アルバイトなどの勤務形態で働く方法もあります。常勤医として働きながら副業をする自信がない場合は、勤務先を固定せず、スポットアルバイトや定期非常勤の仕事をするフリーランス医として働くことも可能です。
臨床医以外の仕事をしたい方は、医師免許を活かして新たなキャリアに挑戦してみましょう。
医師から他業種への転職は、メリットだけではありません。年収の低下や臨床現場に復帰するのが難しくなるなど、他業種への転職にはデメリットもあります。
医師から他業種に転職すると、給与が大きく下がってしまう可能性があります。例えば、大手企業や外資系企業ではなくベンチャー企業で働く場合、以前よりもはるかに少ない年収が提示されることもあります。
他業種へ転職する場合は、給与水準が低下するリスクがあることを前提として、現在の生活水準を維持できるかよく検討しましょう。
また、医師を辞めて臨床現場を離れると、復帰が難しくなる場合があることもデメリットです。臨床現場から離れている間も医療技術は日々進歩しています。将来、臨床医として復帰することも検討している場合は、兼業しながら働くなど、臨床現場と接点を持ちながら転職することをおすすめします。
しかし、資格を持っていても他業種となると、転職のハードルは年齢を重ねているほど高くなるのも事実です。転職を成功させるには、なるべく早い段階で臨床医以外のキャリアを目指す必要があります。
医師免許を活かして他業種で働きたい方は、メリットとデメリットの両方を比較することが大切です。
医師免許があれば医師や臨床医以外にも、製薬会社のメディカルドクター、保険会社の保険社医、厚生労働省の医系技官、法務省の矯正医官、大学や研究機関の研究職、民間企業の産業医など、さまざまなキャリアを検討することができます。
厚生労働省が医師の働き方改革を推進するなど、医師の長時間労働や時間外労働は大きな課題の一つです。激務を避けたい、ワークライフバランスを実現したいと考えている場合は、臨床医以外のキャリアを目指す選択肢もあります。
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