医師国保とは?他の健康保険制度との違いやメリット・デメリットを解説
医師国保とは主に小規模なクリニックなどに勤務する医師や従業員、その家族が加入する保険制度です。特徴は保険料が常に一定であることですが、一方で他の保険制度と比べて不利になる点も少なくありません。本記事では医師国保の仕組みやメリット・デメリットを解説します。
医師国保とは、各都道府県の医師会が主体となって運営する医療従事者向けの健康保険制度です。主に小規模なクリニック等を経営する医師とそこに勤める従業員、およびその家族が加入対象となります。
医療従事者の保険制度には、医師国保の他にも国民健康保険や社会保険などがあり、転職やキャリアアップを考える上でもこれらの違いを把握しておくことが大切です。
本記事では医師国保と他の保険制度の違いや、医師国保のメリット・デメリットを解説します。
医師国保とは医師会に所属する開業医や従業員が加入する保険制度
医師国保は、医師国民健康保険組合の略称で、医師会に所属する開業医とそこに務める従業員、およびその家族が加入できる保険制度です。ここでは医師国保の概要について解説します。
運営は各都道府県の医師会が行っている
医師国保の運営を担っているのは各都道府県の医師会です。医師会は地域の医師たちによって構成される団体であり、地域医療の質の向上や医師の福利厚生の推進など目的に活動を行っています。
医師会は都道府県ごとに組織されており、その数は日本全国で47団体です。医師国保も運営する医師会によって、東京都医師国民健康保険組合や大阪府医師国民健康保険組合と名称が分かれています。
医師国保へ加入する際は、事業所の所在地を管轄する医師会の保険組合に加入することが原則です。
なお、医師国保は保険組合によって保険料や加入要件が異なる場合があるため、管轄の医師会や保険組合については事前に確認しておきましょう。
加入対象は個人事業主の医師と従業員およびその家族
医師国保の加入対象は、医師会に所属する個人事業主の医師とその医師に雇用される従業員、およびその家族です。ただし、加入対象となる医師は、自身が雇用する従業員が5名未満である場合に限られます。これは、従業員を5名以上雇用する事業所では社会保険の加入義務が生じるためです。
医師国保に加入した場合、事業主である医師本人は第1種組合員、雇用される従業員は第2種組合員に分類されます。(※)
第2種組合員は看護師や医療事務、受付などの従業員のほか、勤務時間などの一定要件を満たすパートタイマーやアルバイトも対象です。
なお、医師国保は世帯単位での加入が原則です。医師本人およびその医師に雇用される従業員が医師国保に加入した場合、同一世帯で暮らす家族も医師国保に加入する義務が生じます。ただし、社会保険に加入している家族、もしくは75歳以上の高齢被保険者には医師国保の加入義務がありません。
※出典:東京都医師国民健康保険組合.「組合員の資格について」.
https://www.tokyo-ishikokuho.or.jp/kanyu/shikaku.html
保険料が収入にかかわらず定額
種別
医療保険料
合計
第1種組合員
医療給付費保険料:27,500円
後期高齢者支援金等保険料:5,000円
32,500円
第2種組合員
医療給付費保険料:13,500円
後期高齢者支援金等保険料:5,000円
18,500円
家族
医療給付費保険料:7,500円
後期高齢者支援金等保険料:5,000円
12,500円
上記の保険料は、加入者の収入が増減しても変動することはありません。保険料が一定であることは加入者にとってメリットにもデメリットにもなり得ます。
一般的には医師国保の方が経済的な恩恵が大きいと考えられますが、加入者の収入次第では国民健康保険や社会保険の方が恩恵が大きい場合もあることを覚えておきましょう。
※出典:東京都医師国民健康保険組合.「保険料について」.
https://www.tokyo-ishikokuho.or.jp/kanyu/hokenryou.html
医師国保と国民健康保険・社会保険との違い
日本で暮らす人々は、個人事業主であれば国民健康保険、企業等の組織に雇われる労働者であれば社会保険へ加入することが一般的です。しかし、医師国保は特殊な労働環境に置かれる医療従事者とその家族のための保険制度であり、国民健康保健とも社会保険とも性格が異なります。
自身にとって適切な保険制度を選択するためにも、医師国保とその他の保険制度の違いを押さえておきましょう。
1. 加入対象者
医師国保、国民健康保険、社会保険それぞれの加入対象者を簡単にまとめると以下のようになります。
健康保険の種類
加入対象者
医師国民健康保険組合
(医師国保)
● 医師会に所属する個人事業主の医師で、常時雇用する従業員が5名未満の者
● 医師国保に加入する医師に雇用される労働者
● 医師国保に加入する医師および労働者と同一世帯の家族
国民健康保険
● 他の保険制度に加入していない全ての国民
※生活保護受給者や後期高齢者医療制度の対象者等を除く
社会保険
(協会けんぽ・健康保険組合・共済組合等)
● 企業や公的機関などの法人事業所、または従業員を常時5名以上雇用する個人事業所と雇用契約を結ぶ労働者とその扶養家族
医師国保の加入対象者は、先述のとおり医師会に所属する個人事業主の医師とその従業員、および医師国保加入者と同一世帯の家族です。ただし、該当の事業所で常時雇用される従業員が5名以上の場合は社会保険への加入義務が生じます。
国民健康保険は特定の健康保険制度へ加入していない全ての国民が加入の対象です。(※)一般的には、自身で事業を行う個人事業主や、特定の事業所との雇用契約がないフリーランスの労働者が加入する保険として認識されています。なお、生活保護の受給者や、後期高齢者医療制度の対象者等には国民健康保険の加入義務はありません。
社会保険は、主に企業等の法人事業所と雇用契約を結ぶ労働者とその扶養家族を加入対象とする保険制度です。正確には健康保険のほか、厚生年金、雇用保険、労災保険、介護保険の5つの制度をまとめて社会保険と呼びます。フルタイムでなくても一定の条件を満たすと加入が必要です。(※)
なお、社会保険に該当する健康保険には、協会けんぽや業界ごとの健康保険組合、公務員が加入する共済組合などがあります。
※出典:厚生労働省.「国民健康保険制度」.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/koukikourei/index_00002.html※出典:行政広報オンライン.「パート・アルバイトの皆さんへ 社会保険の加入により手厚い保障が受けられます。」.
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201607/2.html#section1
2. 保険料
医師国保と他の健康保険制度との大きな違いは保険料の仕組みです。先述したように、医師国保には組合ごとに金額の違いはあるものの、加入者の収入による保険料の変動はありません。加入者の年収が増減したとしても、一人当たりが納める保険料の金額は常に一定です。
一方、国民健康保険や各種社会保険では、加入者の収入によって保険料のベース金額が変動します。そのため、加入者の収入が増加すれば保険料も高くなり、反対に加入者の収入が減少すれば保険料も安くなります。
低所得世帯の場合、医師国保よりも国民健康保険の方が経済的な負担は少ないでしょう。
3. 保険給付の内容
医師国保で受けられる保険給付の内容は、特に社会保険と比較した場合に大きな違いがみられます。例えば、社会保険では傷病手当や休業手当などの給付制度が当たり前にみられますが、医師国保には同様の制度はありません。
一方で、医師国保と国民健康保険はどちらも国民健康保険法に基づいた制度であるため、保険給付の内容はほぼ同じです。医療費の一部負担はもちろん、高額療養費や海外療養費の一部返還といった保証は医師国保でも適用されます。(※)
※出典:東京都医師国民健康保険組合.「保険給付」.
https://www.tokyo-ishikokuho.or.jp/hoken_kyufu/index.html
4. 扶養家族の有無
健康保険制度において扶養家族の概念があるのは社会保険です。社会保険では、被保険者が自身の収入で養う扶養家族(被扶養家族)も被保険者として登録できます。社会保険の被保険者となった被扶養家族は、個別に保険料を支払わずとも保険給付の受給が可能です。
一方で医師国保と国民健康保険には扶養家族の概念がなく、世帯を構成する家族それぞれに健康保険への加入義務が生じます。世帯主の収入で養われる者であっても、収入の有無にかかわらず個々の名義で国民健康保険へ加入しなければなりません。
5. 国民年金への加入の必要性
医師国保と国民健康保険の加入者は、健康保険制度への加入と同時に国民年金への加入も必要です。
一方、社会保険に加入すると健康保険と同時に厚生年金にも加入することになります。そのため、社会保険の被保険者は国民年金への加入が不要です。
6. 自家診療における保険適用の有無
医師国保では、被保険者の自家診療に対する保険給付が原則として認められません。(※)自家診療とは、医師が自身の家族や従業員に対して行う医療行為のことです。自家診療は、社会通念上の理由および倫理的観点から積極的に推奨される行為ではなく、医師国保でも運営元の医師会によって自家診療に対する保険適用を禁止する規定が設けられています。
中には、医師国保でも自家診療の保険適用が認められているケースもあります。例えば、土地が広大な北海道や離島など、対応できる医師の数が限られる地域での自家診療です。このような地域では人命優先の観点から、自家診療の保険給付が許可されている場合もあります。詳細は各医師会が定める医師国保の規約を確認しましょう。
また、医師国保以外の保険制度でも、自家診療に対する保険適用の対応はさまざまです。自家診療の扱いについては保険制度ごとに確認をしましょう。
なお、中小企業が多く加入する協会けんぽでは自家診療に対する保険適用が認められています。
※出典:東京都医師国民健康保険組合.「自家診療について」.
https://www.tokyo-ishikokuho.or.jp/hoken_kyufu/zikaryouyou.html
参考記事:国民健康保険と社会保険の違いとは?保険料負担や保障内容を比較して解説| 労務SEARCH
医師国保に加入するメリット
ここまで医師国保と他の健康保険制度との違いを紹介してきました。ここからは医師国保に加入するメリットとデメリットについて解説します。
まずは医師国保のメリットからみていきましょう。
収入増加に伴う保険料の変動がない
医師国保に加入するメリットは、収入が増加しても保険料が変動しないことです。先述したように、医師国保の保険料は常に一定です。被保険者の所得が上昇しても、支払う保険料は医師国保ごとに決められた一定の金額から増えることはありません。
つまり、医師国保では収入が増えれば増えるほど、保険料の負担が相対的に減少していくことになります。収入の増加に伴い保険料も増額される他の健康保険制度と異なり、将来的な保険料増加の心配がないことが医師国保の魅力です。
事業所の金銭的な負担がない
医師国保の保険料は被保険者本人の全額負担です。被保険者を雇用するクリニックなどの事業所が従業員の保険料を負担する必要はありません。
一方、協会けんぽ等の社会保険の場合、被保険者の保険料は被保険者本人と事業所の折半です。そのため、従業員の収入が増えるほど、また雇用する従業員の数が増えるほど事業所側の負担は大きくなります。
従業員を雇用する医師の視点で考えれば、社会保険よりも医師国保の方が事業所の負担は軽微です。
ただし、従業員の視点で考えると、医師国保よりも社会保険の方が負担の少ないケースもあります。従業員を5名以上雇用すると社会保険の加入義務が生じるため、保険料の負担も考慮しつつ雇用する従業員数を決めましょう。
医師国保に加入するデメリット
続いて医師国保のデメリットについて解説します。医師国保へ加入する場合は以下のデメリットに留意しましょう。
収入が減少しても保険料は下がらない
保険料が一定の医師国保では、仮に収入が減少してしまった場合でも保険料が下がるわけではなく、それまでと同等の金額を支払わなければなりません。
収入の減少に対して保険料も安くなる社会保険や国民健康保険と比べると、この点は医師国保の懸念点となるでしょう。
医師国保の保険料は収入が低いほど相対的に割高となるため、低所得世帯では特に注意が必要です。
世帯人数が増えると支払う保険料も増える
医師国保には扶養家族の概念がないため、子供が生まれるなどして世帯人数が増えた場合はその分の保険料も支払う必要があります。世帯人数が増えれば増えるほど世帯あたりの保険料が増えていくことも医師国保のデメリットです。
各種手当や保険給付の種類が少ない
雇用保険や労災保険などと合わせて加入し、さらには事業所ごとの福利厚生もある社会保険と比較すると、医師国保の保険給付は種類が少なく感じられるでしょう。
社会保険では一般的な傷病手当や出産手当といった各種手当金、また休業時の保険料免除といった仕組みも、医師国保にはありません。
医師国保に加入するときの注意点
最後に医師国保に加入する際に注意すべきポイントを2つ紹介します。特に社会保険から医師国保へ切り替えを行う場合は、ここで紹介する内容をしっかり押さえておきましょう。
国民年金への加入手続きが必要
社会保険から医師国保への切り替えとなる場合は、保険の加入手続きとは別に国民年金の加入手続きが必要です。社会保険の被保険者は厚生年金に加入しますが、医師国保の被保険者は国民年金に加入します。
通常、社会保険に加入していた事業所を退職したときは、その事業所側が厚生年金を含めた社会保険の脱退手続きを行います。一方、国民年金への加入するためには、本人による役所への届出が必要です。年金の未納期間を生じさせないためにも、社会保険脱退後は速やかに国民年金への加入手続きを実施しましょう。
なお、国民健康保険から医師国保へ切り替える場合は既に国民年金に加入している状態のため、手続きは不要です。
万が一の備えは自ら行う
医師国保や国民健康保険で受給できる保険給付は、医療費の負担など最低限のものに限られます。特に医師国保の場合は収入の減少に伴う保険料の減額や納付免除もありません。
そのため、自ら万が一の事態に備えておく必要があります。国民共済や民間の保険会社等から提供される保険サービスへの加入も検討しておきましょう。
参考サイト:保険相談・見直し・選び方を伝えるメディア「ほけんROOM」
医師国保の制度や他の健康保険との違いを知っておこう
医師国保とは主に小規模個人事業主の医師とそこで働く従業員、およびその家族を対象とした保険制度です。特徴は収入にかかわらず保険料が一定であることですが、このことは被保険者にとってメリットにもデメリットにもなります。
医師をはじめ、医療従事者が転職を考える場合はその事業所がどのような保険制度を採用しているか知ることが大切です。医師国保の仕組みを理解しておけば、今後の転職やキャリア形成に活かすこともできるでしょう。
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