医師は収入が多く、定年以後も働ける安定した職業です。ただ、少子高齢化や長時間労働の常態化、医師の偏在などの問題も抱えています。自分の理想とするスタイルで働き続けるには、社会的なニーズに対応する術を養いつつ、セカンドキャリアなども考慮することが大切です。
医師というと、高収入で将来安泰というイメージを持たれる方が多いでしょう。しかし、現代日本は長らく景気が低迷していることに加え、新型コロナウイルスの影響などにより、多くの産業が少なからずダメージを受けています。
今後の日本経済を考えた場合、医師の将来は本当に安泰なのか不安に思う人も多いかもしれません。
本記事では、医師という職業の現状や現代日本が抱える医療の問題、将来のために今から取り組んでおきたいことなどについて解説します。
医師の将来性を考えるために、まずは現代日本の医師を取り巻く現状を5つのポイントからチェックしてみましょう。
医師が将来安泰と言われる理由の一つに、他の職業に比べて高年収であることが挙げられます。厚生労働省が実施した第23回医療経済実態調査(令和3年実施)の報告によると、個人病院と医療法人それぞれの医師の入院診療収益ありの平均年収の推移は以下のとおりです。(※)
個人 | 医療法人 | |
平成27年度 | 約724万円 | 約1,585万円 |
平成28年度 | 約902万円 | 約1,576万円 |
平成29年度 | 約1,057万円 | 約1,289万円 |
平成30年度 | 約778万円 | 約1,232万円 |
令和元年度 | 約1,044万円 | 約1,119万円 |
令和2年度 | 約1,239万円 | 約1,193万円 |
医師の年収は年度によって多少ばらつきはありますが、おおむね1,000万円~1,200万円と推定されます。
一方、国税庁が公開している令和2年民間給与実態統計調査によると、給与所得者全体の平均給与は433万円です。(※)
正規雇用のみに絞っても平均給与は496万円ですので、医師の年収が一般的な給与水準を大きく上回っていることが分かるでしょう。
ただ、個人病院は年度による収入の差が大きく、患者の入りによっては年収が大幅に下がってしまうこともあります。
一方、医療法人の年収は比較的安定していますが、平成28年以前に比べると、ここ数年の年収は大きく減少しています。近年は新型コロナウイルスを含む世界情勢の変動により、日本では物価の上昇が続いている状態です。
高収入の医師といえども、このまま収入が増えずに物価が上昇していけば、生活に支障を来す可能性はゼロではないでしょう。将来性を考えると現在の地位に甘んじることなく、安定した収入を得るためにはどうすればよいか、先々のことも見据えることが大切です。
※出典:厚生労働省.「第21回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告」.
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/dl/21_houkoku_iryoukikan.pdf
※出典:厚生労働省.「第22回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告」.
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/dl/22_houkoku_iryoukikan.pdf
※出典:厚生労働省.「第23回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告」.https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/dl/23_houkoku_iryoukikan.pdf
※出典:国税庁.「令和2年分 民間給与実態統計調査」.
https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan/gaiyou/2020.htm
厚生労働省が公開している令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況によると、令和2年における医師の数は約33万9,000人、人口10万対の人数は269.2人です。(※)
同統計は2年に1回のペースで公開されていますが、いずれの値も昭和57年(1982年)の統計以降、最も大きな数字となっています。
一般の企業と同じく、医療法人に在籍する勤務医の定年は60歳または65歳と規定されていることが多いですが、一方で定年のない医療機関や、再雇用制度を設けている医療機関もあります。
また、個人病院を開業すれば定年がなくなるため、70代以降も現役で働いている医師が少なくありません。少子高齢化が叫ばれる現代日本では働き手である労働生産人口が年々減少していますが、医師に限っては、新たに医師として働き始める人に加え、高齢でも現役で働いている人が多いことから今後もますます数が増えていくと予想されています。
特に個人病院の場合、医療機関の多い場所で開業すると患者の取り合いになり、今後ますます競争が激化していく可能性があります。
※出典:厚生労働省.「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況 結果の概要」.https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/20/dl/R02_1gaikyo.pdf
日本ではこれまで、医師のキャリアに関わるさまざまな体制・制度が変化してきました。なかでもここ数年で最も大きな変化をもたらしたのが、2018年4月より開始された新専門医制度です。(※)
日本ではそれまで、各領域の学会が独自の方針を元に設けた専門医制度により、医師の専門性に係る評価・認定を行ってきました。しかし、専門医制度を運用する学会の乱立により、認定基準が統一化されていないこと、専門医として有するべき能力の捉え方について医師と国民の間にギャップがあることなど、国民にとって分かりにくい仕組みである点が問題視されていました。
新専門医制度はそんな医療業界の問題を解決するために新設された制度で、それぞれの診療領域における適切な教育を受け、かつ十分な知識と経験を持った医師を輩出することを目的としています。
具体的には、初期臨床研修を履修した後に専攻医登録を行い、各専門研修プログラムに応募・選考を経て、2段階性の研修を受けることが必要です。
まず1段階目では、19の基本領域から一つの領域を選択し、3年以上にわたって研修に取り組んで基本領域の専門医資格を取得します。
2段階目では、より専門性の高いサブスペシャルティ領域の研修を受け、専門医資格の取得を目指します。この新専門医制度の導入により、大きく変化するのは将来の医師像を決めるタイミングです。以前までは、後期研修医として医療機関に勤務しながら専門科を決めるという方法が成り立ちましたが、新専門医制度では1段階目の研修で19の基本領域から一つの領域を選ばなければならないため、ある程度将来の医師像を決めておかなければなりません。
基本領域、サブスペシャルティ領域ともに、専門医資格を取得した後に別の領域の研修を受講することも可能ですが、基本領域だけでも最低3年の研修を受けなければならないため、かなりの時間がかかります。
専門医資格の取得を目指す際は、将来どのような医師になりたいのか、どのようなキャリアを積んでいきたいのかをじっくり考えておく必要があります。
※出典:厚生労働省.「新たな専門医制度の背景と現状(改)」.https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/000508257.pdf
医療AIとは、人工知能(AI)を駆使して医療の質の向上を目指す取り組みのことです。
厚生労働省が実施した保健医療分野におけるAI活用推進懇談会では、医療AIにより以下3つの実現が期待できるとしています。(※)
AIはデータやプログラムの追加によってどんどん学習していく性質を持っているため、医療AIが普及すればより精度の高い問診や診断が可能になるほか、医薬品開発や手術支援の実現にも期待が寄せられています。
ただ、経験と実績を積んだ医師にもミスや失敗があるように、医療AIであっても診断ミスや判断ミスが起こり得る可能性はゼロではありません。医療AIでサポートできるところは十分に活用しつつ、一方で人間が関わらなければならないところは人の手を介在するなど、医療体制にメリハリをつける必要があります。
また、医療AIを上手に活用するためには、医師自身もAIについてしっかり理解し、知識を深めておかなければなりません。医師としての知識や技術だけでなく、医療AIに関する知識や情報を入手する取り組みを行う必要があるでしょう。
※出典:厚生労働省.「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」.https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000169232.pdf
医師の将来性を考えるにあたっては、現代日本が抱えるさまざまな問題についても知っておく必要があります。ここでは現代日本が抱える主な医療の問題を3つみていきましょう。
現代日本では急速に少子高齢化が進んでおり、2025年にはいわゆる団塊の世代が全て75歳以上になる現実に直面しています。(※)
一般的に、若い世代よりも高齢世代の方が疾患やケガのリスクが高いと言われているため、今後ますます医療ニーズが高くなっていくと予想されます。その一方で、医師自体も高齢化が進んでおり、体力などの問題から一日に受け入れる患者の数を制限したり、あるいは廃業したりするケースも少なくありません。
前述のとおり、医師の数自体は年々増加していますが、高まる医療ニーズに対応できるほどの供給を維持できるかどうかは不透明なままです。
また、医療体制を維持するには、医療施設と医療従事者が必要不可欠です。これらを確保するには社会保障費を捻出しなければなりませんが、高齢者が増えると年金や介護などの分野の支出が大きくなるため、医療に回す分が目減りしてしまいます。
実際、令和3年に実施した第23回医療経済実態調査の報告によると、一般病院の損益差額(医業収益+介護収益-医業・介護費用)がプラスになったのは医療法人のみで、国立病院と公立病院はともにマイナスとなっています。(※)
特に近年は新型コロナウイルスの影響により医療体制がひっ迫し続けていますが、それに対応するために新たな設備を導入したり、人手を増やしたりしなければならない関係上、収益以上に損益が出てしまっているケースも少なくないようです。
※出典:厚生労働省.「令和4年版 厚生労働白書 第7章 国民が安心できる持続可能な医療・介護の実現」.https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/21/dl/zentai.pdf
※出典:厚生労働省.「第23回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告」.https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/dl/23_houkoku_iryoukikan.pdf
医師の将来性を考えるうえでは、労働環境も理解しておきましょう。厚生労働省が令和元年に実施した医師の勤務実態調査によると、病院の常勤勤務医のうち、週あたり60時間以上勤務する医師の割合は男性で41%、女性で28%に及んでいます。(※)
さらに週80時間以上勤務する医師の割合も男性9%、女性6%となっています。
こうした状況を鑑み、政府は令和6年4月1日向けて段階的に医師の働き方改革を行うことを決定しました。(※)
令和6年4月からは、原則として時間外労働は年960時間/月100時間未満を上限とし、月の上限を超える場合は面接指導と就業上の措置が必須となります。連携B水準やB水準、C-1、C-2水準など、他の水準は年1860時間/月100時間未満と上限が大きくなっていますが、将来的には連携B水準やB水準のような暫定特例水準は解消し、C-A、C-2水準も縮減方向を目指すことを目標に掲げています。
ただ、依然として医師の時間外労働の負担が大きいことは否めません。国では時間外や休日労働時間が月100時間を超える、または2~6カ月平均で月80時間を超えると健康障害のリスクが高まるとしています。(※)
医師の働き方改革が施行されても、年960時間を超えない範囲内で月100時間未満までの時間外労働が許容されているので、苛酷な労働環境であることに変わりありません。すでに長時間労働の是正に取り組んでいる医療機関もありますが、人手不足などの問題を抱えているところでは医師一人あたりの負担が大きくなりやすく、是正したくてもできないのが実状のようです。
※出典:厚生労働省.「医師の勤務実態について」.https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000677264.pdf
※出典:厚生労働省.「医師の働き方改革について」.https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000818136.pdf
※出典:厚生労働省.「過労死等を巡る概要 パンフレット」.https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001002059.pdf
医師の数は年々増加傾向にありますが、一方で医師の地域偏在・診療科偏在は依然として解消されていません。令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況によると、医療施設に従事する人口10万対医師数は296.2人ですが、この水準を上回っているのは47都道府県中25都府県です。(※)
最も多いところは徳島県の338.4人、次いで京都府の332.6人、高知県の322.0人と300人の大台を超えています。一方で最も少ない埼玉県は177.8人、次点の茨城県は193.8人と、200人に満たない県もあり、地域格差が大きいことがうかがえます。
また、主たる診療科別にみた医療施設に従事する医師数についても、医師の総数32万3700人に対し、内科は約6万1000人、整形外科は約2万2000人、小児科が約1万8000人である一方、アレルギー科は169人、産科は459人、心療内科は885人と、1000人を下回る診療科も見受けられます。
このように、診療科によって従事する医師数に大きな開きがあるのも現代医療が抱える問題の一つです。今後、医師の偏在がますます顕著になると、必要な医療を受けられない、医療難民の増加が懸念されるでしょう。
※出典:厚生労働省.「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況 結果の概要」.https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/20/dl/R02_1gaikyo.pdf
医師が将来の安定性を確保するために、今やっておくべきことを2つ紹介します。このポイントを押さえておくことで、将来性が期待できます。
医療は日進月歩と言われており、日々新しい治療法や技術が確立されています。現状に満足せず、知識やスキルの向上に励み、市場価値の高い技術を会得すれば、収入の安定にも繋がります。
また、今後は医療AIが広く活用されていくことが考えられるので、AIに関する知識も積極的に学んでおくとよいでしょう。
医師は専門性の高い職業なので、働き方を変えれば一般的な定年を超えて働くことも可能です。将来性を考えてより長く働きたい、あるいは高齢になった時に心身の負担を減らしたいと思ったら、セカンドキャリアのことも考えておきましょう。
個人病院を立ち上げて自分で運営すれば、自ら引退するまで医師として働くことが可能です。実際に勤務医として定年を迎えた後、退職金などを使って開業するケースも少なくないようです。
また、勤務医の賃金は基本給+各種手当と決まっていますが、開業医なら稼いだ分がそのまま自分の収入になります。診療方針や働き方を自分で決められるのも利点ですが、一人で運営する場合は長期の休みが取りにくい、診療の負担が大きくなるなどのデメリットもあるので要注意です。
これまで培ってきた経験や実績を活かしながら、他の専門科に行くという方法もあります。例えば、整形外科医としての専門性を元に、リハビリテーション科で働くなどです。
前述した新専門医制度の研修を選ぶにあたり、セカンドキャリアのことも考えておくと将来の選択肢が広がります。
救命救急機能のある病院や病床数が多い病院は長時間労働になりやすく、心身に大きな負担がかかりがちです。年齢を重ねて体力・気力が衰えてきたと思ったら、救命救急機能や入院機能のない医療機関に転職するのも一つの方法です。
ただ、これらの機能がない規模の小さい病院は医師の数が少なく、一人あたりの業務量が増えてしまう可能性があります。転職する場合は労働環境を事前にチェックし、理想の働き方ができるかどうか精査しましょう。
勤務医から、院長や副院長などの役職に就任すれば、病院の経営に携わることが可能になります。これまで培ってきた勤務医としての経験を活かし、現場の声も反映させながら、働きやすい環境づくりや患者のニーズに応える病院経営などを目指せます。現場仕事が減り、身体面への負担が小さくなるのも利点の一つですが、そのぶん心労を抱えることも多くなるので、自分に適性があるかどうかよく考えることも大切です。
医師は高収入かつ一般的な定年を超えて働ける専門性を有していることから、将来安泰と思われがちです。しかし、現代日本は少子高齢化や長時間労働、医師の偏在などさまざまな問題を抱えています。
今後ますます高まっていく医療ニーズに備え、必要なスキルや知識を身につけつつ、自分の働き方やセカンドキャリアについても検討しておくことが大切です。
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