近年は従業員の健康管理を経営課題とし、戦略的に実践する健康経営に取り組んでいる企業が増えてきています。
産業医は健康経営に欠かせない人材ですが、ただ医師免許を有しているだけではその役割を果たせません。
産業医を目指す場合は、必要な資格や条件を事前に確認しましょう。本記事では、産業医になるために必要な資格や条件、方法について解説します。
労働安全衛生法第13条の2項では、産業医は厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければならないとしています。(※)
ここでいう要件は労働安全衛生規則第14条の2項にて、以下のように定められています。(※)
これから産業医を目指す方は、1または3の方法を選択するのが一般的です。次項からは、1または3の方法で産業医になる手順や概要について解説します。
産業医になる1つ目の方法は、日本医師会の研修を受けることです。
日本医師会が実施する研修は、安全衛生規則第14条2項の1の必要な医学に関する知識についての研修に該当します。
日本医師会の研修では産業医活動を行うために必要な基本的知識・技術を習得することが可能で、産業医になるには50単位以上の取得が条件となります。(※)具体的な基礎研修の内容は以下のとおりです。
基礎研修 | 研修内容 | 取得単位 |
前期研修 |
|
14単位以上 |
実地研修 | 主に職場巡視などの実地研修、作業環境測定実習などの実務的研修 | 10単位以上 |
後期研修 | 地域の特性を考慮した実務的、やや専門的、総括的な研修 | 26単位以上 |
研修を修了すると、受講取得単位を記載した産業医学研修手帳(Ⅰ)が都道府県医師会を通じて受講者へ交付されます。
基礎研修会は日本医師会ならびに都道府県医師会で開催されます。地域によって日程が異なるため、日本医師会雑誌などで開催日を確認しておきましょう。
なお、研修はおおむね6日間にわたって実施されます。6日間連続で研修を開催するところもあれば、2日間ずつ計3回に分けて実施するところもあります(※)。
前者は一部のみ受講は不可としている場合が多いため、日程を確認したうえでしっかりスケジュールを空けて臨みましょう。
後者は2日ずつ3回に分けて受講できるので、受講のためにまとまった日数を空けられないという方におすすめです。
ただ、後述する産業医の認定申請手続きは、基礎研修最終受講日から5年以内に申請することが条件となっています。3回に分けて受講する場合は、5年以内にすべての基礎研修を履修しなければなりません。
基礎研修の実施回数は地域によって異なりますが、頻繁に開催しているものではないので分割して受講する場合は計画的に研修を受けるようにしましょう。
※出典:日本医師会.「『日本医師会認定産業医』制度について」.https://www.sangyo-doctors.gr.jp/about/institution.html,(入手日付2023-2-21).
※出典:産業医科大学.「日本医師会認定産業医制度基礎研修会産業医科大学 産業医学基礎研修会 東京集中講座」.https://www.uoeh-u.ac.jp/medical/isikaikensyu.html,(入手日付2023-02-21).
産業医の基礎研修50単位以上を修了した後は、産業医認定の申請手続きを行いましょう。
手続きには以下の書類が必要です。(※)
1の書類は都道府県医師会に用意してあります。手続きも医師会の窓口で行うので手続き当日に交付してもらい、その場で記載すればOKです。
ただし、申請方法は都道府県医師会によって異なる場合があるので、詳しい手続き方法については事前に各医師会へ問い合わせておきましょう。
窓口では、上記3つの書類に審査・登録料10,000円を添えて申請を行いましょう。手続き終了後、都道府県医師会長は申請者の基礎研修受講状況などを審査したうえで、日本医師会長への申請を行います。
申請を受けた日本医師会長は、当該医師について審査・認定し、認定証を交付します。同時に、認定産業医登録台帳に認定者名などが登録されます。
産業医になる2つ目の方法は、産業医科大学が実施している講座を受講することです。労働安全衛生規則第14条の2項の2(産業医科大学その他の大学であって厚生労働大臣が指定するものにおいて当該課程を修めて卒業した者であって、その大学が行う実習を履修したもの)に該当する方法となります。
産業医科大学では、毎年7月から8月にかけて産業医学基礎研修会集中講座を実施しています。(※)
研修プログラムは日本医師会が定める認定産業医研修制度のカリキュラムに沿って立案されたもので、総論と各論から構成された講義を受講することにより、産業医に必要とされる知識を体系的に学ぶことができるのです。
さらに10時間の実習では、産業保健分野で求められる最新のトピックや、産業医活動時に要求される実践的なスキルを参加型形式で学習することが可能です。
プログラムの内容は日々変化する産業社会からのニーズや課題に応じて毎年少しずつ改訂されており、産業医の育成に貢献しています。
研修は6日間50時間で行われ、修了者は産業医の資格を取得することができます。1・2・5・6日は座学が中心ですが、3日目と4日目には以下のような実習が行われます。(内容は年によって変更する場合があります)
募集人員は1クール開催と2クール開催で異なり、前者は600名、後者は各クール500名ずつが定員です。(※)
ただし、近年は新型コロナウイルス感染拡大の予防措置として定員を削減して開講されています。令和4年度は各クール360名の2クール制で、通常より280名少ない720名が定員でした。
受講申込は1週間程度にわたって受け付けていますが、定員の3倍を超える申し込みがあった場合は申込受付期間にかかわらず募集を締め切ってしまうため、早めに募集を済ませる必要があるでしょう。なお、期間内に受け付けたものは抽選で申込者を選定します。
産業医科大学では夏季集中講座とは別に、毎年11月頃に東京集中講座も開催しています。(※)こちらは産業医科大学と日本医師会が共同で開催しているもので、研修プログラムは日本医師会の研修に沿ったもの(基礎研修50単位)です。
また、短期集中講座とは別に、2カ月間にわたって実施される産業医学基本講座も開講しています。(※)
同じ産業医科大学主催の講座でも、実施期間や会場、定員、受講料、受講後に交付される証明書などに違いがあるので、概要をよく調べて申し込みましょう。
※出典:産業医科大学.「研修会の概要」.https://www.uoeh-u.ac.jp/medical/training/sc/seminar.html,(入手日付2023-02-28).
※出典:産業医科大学.「日本医師会認定産業医制度基礎研修会 産業医科大学 産業医学基礎研修会 東京集中講座」.https://www.uoeh-u.ac.jp/medical/isikaikensyu.html,(入手日付2023-02-21).
※出典:産業医科大学.「産業医学基本講座」.
https://www.uoeh-u.ac.jp/medical/training/course.html,(入手日付2023-02-21).
産業医科大学の講座への申し込みは、例年4月上旬から始まります。
産業医科大学のホームページからオンラインで申し込むことになるので、パソコンやスマートフォンなどで手続きしましょう。
申し込み後、抽選が行われ、4月中旬~下旬頃に結果が通知されます。抽選に漏れた場合も、キャンセルが出れば受講できる可能性があります。
受講可となった場合、指定期限までに受講料を入金しましょう。受講料を入金すると、7月上旬頃に受講者証と領収書、当日の注意事項、会場案内等が送付されます。講座の受講には受講者証が必要なので、当日は忘れずに持参しましょう。
産業医科大学の講座を修了した後は、産業医認定の申請手続きを行います。手続きは日本医師会の研修を受けた場合と同じです。
ただし、産業医科大学の講座を受講した場合、産業医学研修手帳(Ⅰ)の代わりに、産業医科大学産業医学基本講座修了認定書または産業医科大学産業医学基礎研修会集中講座修了認定書の提示が必要になります。
3つ目の方法は、労働衛生コンサルタント試験を受けることです。労働安全衛生規則第14条の2項の3に該当する要件となります。
労働衛生コンサルタント試験には、保健衛生と労働衛生工学の2区分がありますが、産業医を目指す場合は保健衛生の区分で受験する必要があります。
試験科目・試験時間は以下のとおりです。(※)
試験科目 | 方法 | 試験時間 |
労働衛生一般 | 択一式 | 120分 |
労働衛生関係法令 | 択一式 | 60分 |
健康管理、労働衛生工学 | 記述式(保健衛生の区分を選択) | 120分 |
受験申請書は公益財団法人安全衛生技術試験協会本部、および各地域の安全衛生技術センターで配布しているほか、郵送で請求することも可能です。
受験申請書に必要事項を記載し、受験資格に応じた添付書類と試験手数料、証明写真を添付して、各安全衛生技術センターへ提出します。
なお、試験手数料は24,700円です。(※)
労働安全コンサルタント試験に合格した後は、安全衛生技術試験協会にて、安全衛生コンサルタントの登録手続きを行います。
コンサルタント登録申請書に試験合格証の写しを添付し、手数料20,000円を添えて申請しましょう。登録申請書は協会本部窓口のほか、郵送で取り寄せたり協会の公式ホームページからダウンロードしたりして入手できます。(※)
手続きを済ませると、後日登録証が交付されます。
産業医になるためには、医師免許を取得するだけでなく、安全衛生法および安全衛生規則に基づいた一定の要件を満たす必要があります。
具体的には、日本医師会または産業医科大学で行われている研修会・講義を履修するか、あるいは労働衛生コンサルタントの試験に合格することで産業医の認定資格を取得することが可能です。
産業医の資格を取得すれば、企業の専任産業医として健康経営に携わることができるようになり、就職・転職の選択肢が広がるでしょう。
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