2022年度も診療報酬が改定されました。新型コロナウイルス感染症への対応のほか、医師(医者)の働き方改革の推進や、安心・安全で質の高い医療の実現、持続可能な医療提供体制の構築が診療報酬改定の基本方針です。2022年度の診療報酬改定の要点を解説します。
2022年度の診療報酬改定により、医療機関を取り巻く環境は大きく変わりました。2020年度の診療報酬改定でも焦点となった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連の分野に加えて、合計4つの分野で診療報酬の算定が見直されています。新型コロナウイルスを始めとした新興感染症のリスクに対応しつつ、医師(医者)の働き方改革の推進や、安心・安全で質の高い医療サービスを実現することが2022年度の診療報酬改定の目的です。
この記事では、2022年度の診療報酬改定の基本方針や、個別改定項目の内容をわかりやすく解説します。
厚生労働省が公表した「令和4年度診療報酬改定の基本方針」によると、2022年度の診療報酬改定の基本方針は以下の4つに分けられます。(※)
ここでは、2022年度の診療報酬改定の基本方針を1つずつ解説していきます。
※出典:厚生労働省. 「令和4年度診療報酬改定の基本方針」.https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000870401.pdf
1点目の基本方針は、「新型コロナウイルス感染症等にも対応できる効率的・効果的で質の高い医療提供体制の構築」です。2020年度の診療報酬改定でも、新型コロナウイルス感染症を始めとした新興感染症への備えが焦点のひとつとなっています。
診療報酬改定の具体的な方向性として、「令和4年度診療報酬改定の基本方針」では以下の6点を挙げています。(※)
2020年に始まった新型コロナウイルス感染症の流行により、日本の医療提供体制は大きなダメージを受けました。そこで、2020年に続いて行われた診療報酬改定では、医療機関の感染防止対策への加算(感染対策向上加算)や、外来診療時の院内感染防止対策への加算(外来感染対策向上加算)などが強化されています。
※出典:厚生労働省. 「令和4年度診療報酬改定の基本方針」.https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000870401.pdf
2点目の基本方針は、「安心・安全で質の高い医療の実現のための医師等の働き方改革等の推進」です。医師(医者)の働き方改革とは、2024年4月から適用される医師の時間外労働の上限規制を指します。
診療報酬改定の具体的な方向性として、「令和4年度診療報酬改定の基本方針」では以下の5点を挙げています。(※)
医師の時間外労働を削減し、働き方改革を実現するには、質の高い医療を提供しながら医師の業務負担を軽減する仕組みづくりが必要です。その仕組みのひとつが、医師以外の職員の業務範囲を拡大し、医療サービスの分業体制を強化するタスク・シェアリング(タスク・シフティング)です。例えば、医師事務作業補助者を設置した場合の点数が加算され(医師事務作業補助体制加算)、勤務経験などの要件も緩和されています。
※出典:厚生労働省. 「令和4年度診療報酬改定の基本方針」.https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000870401.pdf
3点目の基本方針は、「患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現」です。患者一人ひとりが安心して医療を受けられる医療提供体制の実現に向けて、医薬品の安定供給の確保や、医療におけるICTの利活用に関する診療報酬が見直されています。
診療報酬改定の具体的な方向性として、「令和4年度診療報酬改定の基本方針」では以下の6点を挙げています。(※)
診療報酬改定の目玉のひとつが、オンライン診療を提供しやすくするための診療報酬の見直しです。オンライン診療用の初診料の評価が新設され、診療報酬も加算されています。また、子どもを持ちたい人が安心して不妊治療を受けられるようにするため、男性不妊治療や生殖補助医療に関する評価が新設されています。
※出典:厚生労働省. 「令和4年度診療報酬改定の基本方針」.https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000870401.pdf
最後の基本方針は、「効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上」です。医療提供体制の安定性・持続可能性の向上とは、将来的な医療費の増大に備えて、医薬品や医療機器などの医療資源を効率的に配分していく取り組みを指します。
「令和4年度診療報酬改定の基本方針」で挙げられている診療報酬改定の具体的な方向性は、以下の8点です。(※)
例えば、生活習慣病などの重症化を効率的に予防するため、生活習慣病管理料の算定の見直しが行われています。また、外来医療の機能分化により、医療機関ごとの役割や責任範囲を明確化するのもポイントのひとつです。
※出典:厚生労働省. 「令和4年度診療報酬改定の基本方針」.https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000870401.pdf
新型コロナウイルス感染症への対応に関連して、2022年度の診療報酬改定では、多くの評価項目の新設や見直しが行われました。ここでは、現場で働く医師が知っておきたい個別改定項目を3つ取り上げます。
医療機関の感染防止対策をさらに強化するため、感染対策向上加算を「感染防止対策加算」に改称し、感染対策向上加算3が新設されました。また、既存の評価項目も上乗せされています。(※)
改定前 | 改定後 | |
感染対策向上加算 |
感染防止対策加算:390点
感染防止対策加算:90点 |
感染対策向上加算1:710点
感染対策向上加算2:175点 感染対策向上加算3(新設):75点 |
※出典:厚生労働省. 「個別改定項目について」.https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000905284.pdf
また、日常的に地域の患者を受け入れている診療所を対象として、新型コロナウイルスの感染防止対策を推進するため、外来感染対策向上加算を新設しています。
なお外来感染対策向上加算は、患者1人につき月1回しか算定できません。また、厚生労働大臣の施設基準に適合した医療機関のみが対象となります。
“組織的な感染防止対策につき別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関(診療所に限る。)において診療を行った場合は、外来感染対策向上加算として、患者1人につき月1回に限り所定点数に加算する。”
※引用元:厚生労働省. 「個別改定項目について」.https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000905284.pdf
そのほか、地域の医療機関に院内の感染症発生状況についての定期報告を行うなど、医療機関間の連携体制が存在する場合は、さらに連携強化加算(3点)やサーベイランス強化加算(1点)を算定することができます。
機能強化加算とは、地域の医師がかかりつけ医としての機能を提供している場合に加算される項目です。2022年度の診療報酬改定では、機能強化加算の算定要件が厳しくなり、かかりつけ医としての機能が厳格に定義されました。(※)
改正後 | |
機能強化加算の算定要件 | 機能強化加算を算定する医療機関においては、かかりつけ医機能を担う医療機関として、必要に応じ、患者に対して以下の対応を行うとともに、当該対応を行うことができる旨を院内及びホームページ等に掲示し、必要に応じて患者に対して説明すること。 |
機能強化加算の施設基準 |
適切な受診につながるような助言及び指導を行うこと等、質の高い診療機能を有する体制が整備されていること。
地域において包括的な診療を担う医療機関であることについて、当該保険医療機関の見やすい場所及びホームページ等に掲示する等の取組を行っていること。 |
※出典:厚生労働省. 「個別改定項目について」.https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000905284.pdf
医師の働き方改革の推進に向けて、勤務医の負担を軽減するための診療報酬改定が行われています。その中でも、タスク・シェアリングと関連した「医師事務作業補助体制加算」の見直しや、時間外労働の上限規制に関連した「手術及び処置の時間外加算」の要件強化などの個別改定項目を紹介します。
2022年度の診療報酬改定では、医師の事務作業を補助する職員の取り扱いを改善するため、医師事務作業補助体制加算の点数が引き上げられます。(※)
改定前 | 改定後 | |
医師事務作業補助体制加算1 |
イ 15対1補助体制加算:970点
ロ 20対1補助体制加算:758点 ハ 25対1補助体制加算:630点 ニ 30対1補助体制加算:545点 ホ 40対1補助体制加算:455点 へ 50対1補助体制加算:375点 ト 75対1補助体制加算:295点 チ 100対1補助体制加算:248点 |
イ 15対1補助体制加算:1,050点
ロ 20対1補助体制加算:835点 ハ 25対1補助体制加算:705点 ニ 30対1補助体制加算:610点 ホ 40対1補助体制加算:510点 へ 50対1補助体制加算:430点 ト 75対1補助体制加算:350点 チ 100対1補助体制加算:300点
|
医師事務作業補助体制加算2
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イ 15対1補助体制加算:910点
ロ 20対1補助体制加算:710点 ハ 25対1補助体制加算:590点 ニ 30対1補助体制加算:510点 ホ 40対1補助体制加算:430点 へ 50対1補助体制加算:355点 ト 75対1補助体制加算:280点 チ 100対1補助体制加算:238点 |
イ 15対1補助体制加算:975点
ロ 20対1補助体制加算:770点 ハ 25対1補助体制加算:645点 ニ 30対1補助体制加算:560点 ホ 40対1補助体制加算:475点 へ 50対1補助体制加算:395点 ト 75対1補助体制加算:315点 チ 100対1補助体制加算:260点 |
また、医師事務作業補助者の要件が見直され、これまでの勤務時間数ベースの評価ではなく、勤務年数の長さによって評価されるようになりました。(※)
改定前 | 改定後 | |
医師事務作業補助者の要件 | 医師事務作業補助者の延べ勤務時間数の8割以上の時間において、医師事務作業補助の業務が病棟又は外来において行われていること。 |
当該保険医療機関における3年以上の勤務経験を有する医師事務作業補助者が、それぞれの配置区分ごとに5割以上配置されていること。
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※出典:厚生労働省. 「個別改定項目について」.https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000905284.pdf
勤務医の業務負担を軽減するため、当直などの診療行為に対する時間外加算の要件が厳しくなっています。医師の当直回数は、これまで診療科全体で数え上げていましたが、改定後は医師1人当たりの当直回数を計算しなければなりません。また、当直の翌日の事務負担を軽減する措置が求められます。
“手術及び処置の休日加算1、時間外加算1及び深夜加算1の要件について、手術前日の当直回数に加え、連続当直の回数に係る制限を追加するとともに、診療科全体における当直回数から、医師1人当たりの当直回数に規制範囲を変更する。また、当直等を行った日の記録に係る事務負担の軽減を行う。”
※引用元:厚生労働省. 「個別改定項目について」.https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000905284.pdf
安心・安全で質の高い医療を実現するため、2022年度の診療報酬改定でも多くの評価項目が新設されました。例えば、オンライン診療を推進するため、「初診料(情報通信機器を用いた場合)」の評価が新設されています。また2023年4月から始まるオンライン資格確認(マイナンバーカードの保険証利用)の原則義務化に対応し、「電子的保健医療情報活用加算」が新設されました。
2022年度の診療報酬改定により、オンライン診療の初診料の点数として、初診料(情報通信機器を用いた場合)が新設されます。
オンライン診療の再診料は「オンライン診療料」ではなく、「再診料(情報通信機器を用いた場合)」または「外来診療料(情報通信機器を用いた場合)」として評価します。従来のオンライン診療料よりも、評価項目の適用範囲が広いのが改定のポイントです。
2023年4月より、マイナンバーカードを用いたオンライン資格確認の導入が原則義務化されます。オンライン資格確認システムを通じて、患者の薬剤情報や特定健診情報を取得した場合、初診料や再診料に「電子的保健医療情報活用加算」が上乗せされます。(※)
初診料 | 電子的保健医療情報活用加算:7点 |
再診料 | 電子的保健医療情報活用加算:4点 |
外来診療料 | 電子的保健医療情報活用加算:4点 |
※出典:厚生労働省. 「個別改定項目について」.https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000905284.pdf
持続可能な医療提供体制の構築に向けた個別改定項目のポイントは、以下の2つです。
外来医療の役割や責任範囲を明確化するため、紹介状なしで受診した患者の定額負担が重くなりました。新たに「紹介受診重点医療機関」の区分が設けられ、医療機関間の連携がより重要になっています。また、生活習慣病の重症化を効率的に予防するため、生活習慣病管理料を始めとした評価の見直しが行われています。
医療機関間の連携を推進するため、2022年度の診療報酬改定では、紹介状なしで受診した患者の定額負担が大きくなりました。(※)
改定前 | 改定後 | ||
定額負担の金額 | 初診 | 医科5,000円、歯科3,000円 | 医科7,000円、歯科5,000円 |
再診 | 医科2,500円、歯科1,500円 | 医科3,000円、歯科1,900円 |
あえて紹介状なしで受診した患者に対し、初診・再診料を保険給付範囲から以下の点数で控除する必要があります。そのため、患者の定額負担は増えていますが、医療保険の給付額(病院側の収益)は増えていません。(※)
保険給付範囲から控除する点数 | |
初診 | 医科200点(2,000円)、歯科200点(2,000円) |
再診 | 医科50点(500円)、歯科40点(400円) |
※出典:厚生労働省. 「個別改定項目について」.https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000905284.pdf
生活習慣病の患者は人によって症状の重症度が大きく異なり、患者ごとの薬剤料にもバラつきがみられます。そこで2022年度の診療報酬改定では、生活習慣病患者への投薬に関する費用が、生活習慣病管理料の対象範囲から除外されています。
“生活習慣病患者は、患者ごとに薬剤料が大きく異なっている実態を踏まえ、投薬に係る費用を生活習慣病管理料の包括評価の対象範囲から除外する。”
※引用元:厚生労働省. 「個別改定項目について」.https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000905284.pdf, (入手日付2023-01-06).
以下の表は、診療報酬改定前後の生活習慣病管理料の対象範囲をまとめたものです。「保険薬局において調剤を受けるために処方せんを交付する場合」が生活習慣病管理料の対象範囲から外れただけでなく、全体的な診療点数も下がっています。(※)
改定前 | 改定後 | ||
生活習慣病管理料 | 保険薬局において調剤を受けるために処方せんを交付する場合 |
脂質異常症を主病とする場合:650点
高血圧症を主病とする場合:700点
糖尿病を主病とする場合:800点
|
脂質異常症を主病とする場合:570点
高血圧症を主病とする場合:620点
糖尿病を主病とする場合:720点 |
それ以外の場合 |
脂質異常症を主病とする場合: 1,175点
高血圧症を主病とする場合: 1,035点
糖尿病を主病とする場合:1,280点 |
※出典:厚生労働省. 「個別改定項目について」.https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000905284.pdf
2022年度の診療報酬改定は、以下の4つの基本方針をベースに行われました。
2020年度の診療報酬改定に引き続き、新型コロナウイルス感染症に対応可能な医療提供体制の構築が盛り込まれたほか、医師の働き方改革の推進や、医療サービスの質の向上が診療報酬改定のテーマとなっています。現場で働く医師(医者)に影響する項目も多いため、この記事でピックアップした個別改定項目をおさらいしておきましょう。
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