働き方が改革がもたらしたキャリアプランへの影響と今後の展望(後編)

目次
DIO(14年目男性医師/総合診療専門)
総合診療科に所属する中堅医師。これまでに初期・後期研修医の教育を数多く担当し、病院全体の人材育成にも関わる。働き方改革の制度設計にも一部関与しており、実務と制度両方の視点を持つ。
KI77(14年目男性医師/外科専門)
大学病院勤務の大学院生。常勤勤務経験を経て、現在は研究と外勤を並行して行っている。時間管理や収入とのバランスに苦慮しながらも、柔軟な働き方を模索中。
Lemon(15年目男性医師/内科専門)
急性期病院でフルタイム勤務する中堅医師。専門領域での診療に従事する一方、若手のロールモデルとして研修医の育成にも携わっている。時代の変化を肌で感じながら日々奮闘中。
働き方改革のキャリアプランへの影響
――働き方改革は、その他にどのような影響を及ぼしているでしょうか。ここでは、専門医取得や学会活動など、キャリア形成にどのような影響を与えているかをお聞かせいただけますか?
DIO:学会発表や研究活動といったいわゆる“自己研鑽”の領域が、勤務時間外に押し出されるようになり、心身の余裕がなければ続けにくくなっています。また、インフレから、相対的に旅費や学会参加費に対する補助が減ったことが地味に響いていて、発表する機会自体が減っている若手もいます。キャリア形成において重要なこれらの活動が「個人の負担」とされる限り、意欲の差がそのまま格差に直結するのではないかと心配です。
KI77:市中病院時代は、病院側が積極的に学会参加を推奨し、費用もかなりカバーしてくれました。しかし大学院生という立場になってからは、基本的に自己負担。しかも、学会発表が評価につながるにも関わらず、そのプロセスが“勤務外”扱いであることに強い違和感があります。国際学会への参加も制限されており、「世界とつながる機会」が減っているのは、将来的な視野の狭さにもつながる気がしています。
Lemon:研究や学会活動の成果は、最終的に医局や病院の評価につながるはずなのに、その努力の過程は「自己研鑽」として個人に任されている現状に矛盾を感じます。本来であれば病院がキャリア支援の一環として制度的に支えるべき部分だと思います。特に専門医の取得や、教育活動といった将来を左右する要素に対して、もっと手厚い支援があってしかるべきです。
――キャリア形成と働き方改革の関係は、制度的制約と現場の理想の間で最も摩擦が大きい領域だと感じました。Lemon先生の言うように、病院も恩恵を受けている活動を“個人の研鑽”として切り捨てる姿勢は、本質的な議論のすり替えであるとも感じます。医師のキャリアは個人の努力だけで成り立つものではなく、教育・研究・学会活動が医療機関の質を高め、社会全体にも還元されていくものです。そうした活動を勤務時間外に“自己責任で”とするのではなく、明確に「業務」として評価し、補助・支援体制を構築すべきだと強く感じました。特に、専門医取得に必須な症例や研修機会が時間内に得られない現実は、制度との矛盾を象徴しています。個人の熱意に依存する時代は終わりにして、組織的にキャリア支援を行う仕組みが必要だと感じます。
今後の展望と課題解決
――それでは、今後の展望についてお伺いしたいと思います。今後、医師の働き方はどうあるべきでしょうか? そのために必要な改善策はありますか?
DIO:働き方改革の本質は、「医師一人に依存しないチーム医療の実現」だと思います。そのためには、タスクシフティングやAIの導入を通じて業務の再構築が必要です。単に時間を減らすだけではなく、質の高い医療を維持するにはどうするかを考えねばなりません。特に管理職や中堅世代が率先してモデルを示すことで、現場の納得感が高まると感じています。
KI77:時間だけを制限しても、診療報酬制度や病院経営の構造が変わらなければ、結局は現場にしわ寄せが来ます。医師の労働に適切な対価が払われない限り、持続可能な働き方は実現しません。制度改正だけでなく、医療に対する社会の価値観自体を見直す必要があると思います。
保険診療の構造に限界があるとも感じており、例えば1点10円の仕組みがインフレや社会の変化に対応しておらず、インフレ率などに応じて例えば11点、12点に増やす、などといった改善策もあるのではないかと思います。
Lemon:私が理想とするのは「医師にもwell-beingがある」医療現場です。単に労働時間を減らすのではなく、モチベーションややりがいを損なわずに働き続けられる環境。医療の質と医師の生活を両立させるためには、診療のあり方自体を再定義する必要があると思っています。その上で、患者さんや社会にも「医師の限界」を理解してもらう広報活動も必要です。
――このテーマでは、参加者全員の「働き方改革に対する現実的な諦めと、それでも改善したいという意思」が滲んでいたように感じました。「チーム制や引き継ぎの工夫」はまさに現場からの声であり、小さなシステム改善こそが実効性を持ち得るという示唆を感じました。一方で、「そもそも保険診療の構造に限界がある」という視点も非常に重要です。1点10円の仕組みがインフレや社会の変化に対応しておらず、医療機関の財政が圧迫される現状では、いくら現場が工夫しても限界があるのは明白です。「タスクシフティング」も一つの打開策ですが、それを支える責任の分担や評価のあり方も再構築しない限り、現場にかかる重圧は解消されないでしょう。個々の工夫と制度の抜本的改革、その両輪が必要だと再認識しました。
医師の業務適正化とタスクシフティングの現状と課題
――今後医師の業務を見直すとき、他職種やAIなどにタスクを移すべき部分はどこにあるのでしょうか? また、現在現場で行われている工夫があれば教えてください。
DIO: 個人的には、もっとチーム制を浸透させ、特に夜間帯の引継ぎや緊急対応の部分をシステムとして整える必要があると感じています。限界はありますが、院内の体制によっては大きく変わる部分も多いです。レセプト病名の入力や紹介状の下書きなど、医師以外が担えるタスクもまだまだ多いと思います。
KI77: 私の経験では、事務仕事の多くは医療事務スタッフが担ってくれており、紹介状は自分で書くにしても、それ以外の作業はかなりシフトされています。外科領域では、NCDの入力なども施設によっては事務が行ってくれるケースもありました。ただし、特定看護師の導入が進んでも、責任を医師が持つ以上はタスクシフトが進みにくい側面もあります。成功例としては麻酔科のたこ足麻酔などがあり、在宅医療では訪問看護師のスキルアップが特に重要だと考えています。
Lemon: チーム制を取り入れてはいますが、タスクシフトには苦労しています。特に英語対応になると、事務方が対応できなくなり、全て医師が担うことになってしまいます。紹介状の作成もAIで代替可能だと感じています。理想は医師の判断が不要な部分を全て任せる分業制ですが、そこに至るには文化と体制の整備が必要です。
――タスクシフティングについては、「できること」と「してよいこと」の間に大きなギャップが存在していると感じました。技術的には可能なことでも、法的責任や組織文化によって制約されている現場が多くあります。AIや特定看護師、医療事務の力を活かすには、それぞれの職域を明確にし、責任の所在を適正に整備することが欠かせないように感じます。
■医師の働き方改革のゴールとは?
――それでは、そもそも医師の働き方改革は、何をゴールに設定すれば良いのでしょうか? 安全な医療と持続的な人材確保を両立するために、どのような理想像を描いていますか?
DIO: 連続勤務や夜間の対応を当たり前とする体制が見直されるべきです。ただ、医師の給与体系が現在の働き方に依存している現実もあり、「働きたい人が無理なく働ける環境」を残すことも同様に大切だと思います。柔軟性を持った制度設計が求められます。
KI77: 改革の方向性として、労働時間を一律に制限するのではなく、「余力のある人にはしっかりとした報酬を支払い、意欲的に働いてもらう」制度が必要だと思います。日本の制度は出る杭を打ちやすく、均一性を求めすぎていると感じます。賃上げ交渉など医師自身が交渉のテーブルに立つ仕組みがあっても良いのではないでしょうか。
Lemon: 私の考えるゴールは「医師にも人間らしいwell-beingな生活を」です。働き方改革によって医療サービスの提供水準が多少下がったとしても、社会がその現実を受け入れられる成熟が必要です。医療者の限界を認める社会的土壌が、最終的には持続可能な医療を支えると信じています。
――このテーマでは、改革の本質が単なる「時間の短縮」ではなく、「医師が人間らしく働ける社会の実現」であることが明確に語られていたのが印象的でした。Lemon先生が強調された「社会が医療サービスの“低下”を受け入れる成熟が必要」という言葉は非常に重く、今後の社会全体の課題でもあると思います。KI77先生の「出る杭を打つ日本的文化」への問題提起や、「労働組合的な交渉力の欠如」も、医師の働き方を語る上で避けて通れない視点でした。医師の働き方改革は、医療制度、社会意識、文化、教育などすべてが絡み合う複雑な問題です。しかし、DIO先生が述べたように「働きたい人が働ける環境」の整備と、「休みたい人が休める保証」が両立する社会こそが、目指すべきゴールなのではないかと感じました。改革の本質は「画一的な制度」ではなく「個別最適の柔軟性」にあるべきだと感じます。
制度に合わせてベストなキャリア選択を!
今回の座談会では、医師の働き方改革が単なる「時間の調整」ではなく、医療制度全体の再設計と深く関わっていることが浮き彫りになりました。現場では、教育・キャリア形成・生活保障のいずれもが制度的な課題と直結しており、医師個人の努力だけでは解決できない問題も多く存在します。
それでも、今回のように立場の異なる医師たちが率直に意見を交わすことで、次の世代に何を伝えるべきか、どのような仕組みが必要かが見えてきました。制度に合わせて働き方を自分たちで作れる時代になれば良いなと感じずにはいられません。この対話が、より良い未来への第一歩となることを願っています。
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