医師には民間の医療機関で働く医師のほかに、国立や県立等の公的機関で働く公務員医師がいます。公務員医師は民間機関で働く医師と年収や労働環境に違いがあるため、公務員医師を目指す場合は民間医師との違いをよく理解して検討することが大切です。
本記事では公務員医師の基礎知識と、年収の目安、主な仕事内容、公務員医師になるメリット・デメリットについて解説します。
公務員医師とは公的な機関に勤める医師のことで、国家公務員医師と地方公務員医師の2つに分類されます。それぞれの違いと具体的な勤務先について説明していきます。
国家公務員医師とは、国が運営する公的機関に勤める医師のことです。国立病院のほか、医系技官として厚生労働省に勤務するパターンや、検疫医療専門職として検疫所で働くパターンもあります。
臨床の場合は、厚生労働省運営の国立障害者リハビリテーションセンターや、国立ハンセン病療養所、法務省管轄の刑務所、自衛隊の衛生部門などが主な勤務先となります。
地方公務員医師とは、地方自治体が運営している施設に勤務する医師のことです。都道府県立病院や市立病院のほか、警察医として県警に勤める場合もあります。
なお県立と名がついている病院でも、地方独立行政法人などが運営する施設で働く医師は公務員医師ではなく、みなし公務員医師となります。
公務員医師が勤務する病院は大きく分けて3つあります。
国立病院とは厚生労働省が直接運営している、あるいは厚生労働省所管の独立行政法人である国立病院機構が運営している病院のことです。
厚生労働省所管の独立行政法人は令和4年11月14日時点で17あり、国立病院機構以外にも国立国際医療研究センター、国立がん研究センターなどがこれに該当します。(※)
令和2年3月末時点の国立病院の数は322で、病院全体の3.9%を占めています。(※)
2015年より非公務員が勤務するようになってからは公務員医師の在籍人数も減少していますが、今なお国立病院に勤務する公務員医師も少なくありません。
公立医療機関とは、都道府県や市町村といった地方自治体や、厚生労働大臣の定める者が開設した病院・診療所のことです。都道府県立病院や市町村立病院のほか、日本赤十字社が管理する赤十字病院などがこれに該当します。
公的医療機関のうち都道府県や市町村が運営するものは公立病院、その他の機関が運営する病院は公的病院です。公立病院の数は令和2年3月末時点で857あり、病院全体の約1割を占めています。一方の公立病院の数は344あり、病院全体の4.2%を占めています。(※)
大学病院とは大学の付属施設としての病院のことです。国が運営している国立大学、地方自治体や公立大学法人が運営する公立大学、市が運営する市立大学の3つに分類されます。
なお、大学病院に勤務する医師はみなし公務員の扱いになります。
公務員医師の年収は国家公務員医師と地方公務員医師によって異なります。賞与とあわせて見ていきましょう。
国家公務員の給与は俸給表に定められており、職務の級と号俸によって決まります。これを基本給とし、さらに各種手当を加算した額が給与として支給されます。
そのため同じ国家公務員医師でも給与に差がありますが、人事院が発表した「国家公務員給与の実態」によると、令和4年における国家公務員医師の平均給与月額(諸手当含む)は840,532円です。平均給与月額の内訳は以下の通りです。(※)
俸給 | 地域手当等 | 俸給の特別調整額 | 扶養手当 | 住居手当 | その他 |
507,742円 | 90,890円 | 34,536円 | 10,851円 | 6,304円 | 190,209円 |
同じ国家公務員の中でも、事務次官や本府省局長、審議官といった指定職に次いで高く、一般行政職員の平均給与月額(405,049円)の2倍以上に及んでいます。
年収にすると約1,008万円となりますが、これに賞与が加算されるため、実際の年収はさらに高くなります。なお、経験年数別の平均俸給額(手当除く)は以下のとおりです。(※)
経験年数 | 平均俸給額 |
3年以上5年未満 | 357,025円 |
5年以上7年未満 | 365,008円 |
7年以上10年未満 | 387,507円 |
10年以上15年未満 | 431,437円 |
15年以上20年未満 | 483,822円 |
20年以上25年未満 | 515,077円 |
25年以上30年未満 | 540,309円 |
30年以上35年未満 | 543,214円 |
35年以上 | 550,545円 |
職務によって分けられる級別の平均俸給額は以下のとおりです。(※)
級 | 平均俸給額 |
<strong1級 | 388,929円 |
2級 | 489,364円 |
3級 | 550,609円 |
4級 | 581,777円 |
5級 | 624,920円 |
公務員には民間企業で言うところのボーナスにあたる期末手当と勤勉手当の2種類が支給されます。
期末手当とは公務員として在職している期間に応じて給付される定率の手当てです。一方の勤勉手当は、公務員の個々の勤務成績に応じて金額が決まる変動型の手当てとなっています。
期末手当や勤勉手当は在職期間率も関係するため、一概にいくらと言えませんが、参考までに令和4年6月期の一般職国家公務員(管理職を除く行政職職員)の平均支給額は約584,800円でした。(※)
国家公務員医師が属する医療職は、期末・勤勉手当の計算のもとになる平均給与額が高いので、上記よりもさらに多くのボーナスを給付されることが予想できます。
地方公務員医師の給与も国家公務員同様、級と号の組み合わせによって決まります。
これに各種手当が加算され、給与として支給されます。
総務省の「地方公務員給与実態調査結果 職種別職員の平均給与額」によると、地方公務員医師(全地方公共団体)の平均給与月額(扶養手当、地域手当含む)は565,501円です。(※)
職種区分の中では最も平均給与月額が高く、一般行政職の給与(343,207円)の約1.6倍におよびます。年収にすると約678万円となりますが、ここに賞与が加算されるため、実際の額はもっと大きくなります。
なお、扶養手当や地域手当等の諸手当の内訳は以下のとおりです。(※)
扶養手当 | 10,751円 |
<strong地域手当 | 60,624円 |
住居手当 | 6,092円 |
初任給調整手当 | 132,146円 |
通勤手当 | 8,638円 |
単身赴任手当 | 802円 |
特殊勤務手当 | 212,843円 |
管理職手当 | 50,064円 |
特地勤務手当 | 1,737円 |
時間外勤務手当 | 73,014円 |
宿日直手当 | 36,604円 |
管理職員特別勤務手当 | 2,377円 |
夜間勤務手当 | 689円 |
休日勤務手当 | 2,495円 |
ただ地方公務員の勤務時間は所属する自治体によってまちまちなので、給与月額は地域によって差が生じます。
地方公務員も国家公務員同様、期末・勤勉手当が支給されます。令和3年における地方公務員医師の期末手当の平均は年額1,468,586円、勤勉手当の平均は年額1,204,598円です。(※)
公務員医師の仕事内容は、基本的に民間の医療機関に勤める医師と変わりません。ただ、厚生労働省に所属する厚生労働技官の一種である医系技官は一般的な医師とは業務内容が異なります。
ここでは公務員医師の仕事内容の一例として、医系技官の業務について説明します。
医政局とは、国の医療体制に関する法律を所管する部署のことです。病院の施設基準や医療の安全性を定めた医療法や医師法、歯科医師法といった医療職種の資格についての法律などを担当しています。
医系技官は各地方自治体と連携しながら、地域の診療体制を見直したり、医師の偏在問題の対応策を考えたりすることを主な業務としています。
健康局とは各地方の保健所などを通じて、その地域の保健向上を目指し、各種感染症や生活習慣病の対策などを担当する部署です。
医系技官は専門知識を駆使し難病の治療方法を開発したり、研究を支援したりする業務に携わっています。
老健局とは、介護保険制度や高齢者介護・福祉施策の推進などを担当する部署のことです。
医系技官は要介護認定制度や介護報酬制度の見直しを行ったり、介護予防に取り組んだりすることを主な業務としています。
保険局とは、健康保険や国民健康保険といった公的医療保険制度などの企画立案に関する業務を担う部署です。
医系技官は医師としての知識や能力をもとに、2年に1度行われる診療報酬改定の業務を担当する場合があります。
公務員医師になると、以下のようなメリットが期待できます。
民間の医療機関の場合、経営が傾くと給与がカットされたり、失業したりする可能性があります。一方、国や自治体が運営する施設は俸給表に基づいて給与が決まるため、経営状況に応じて給与が変動しにくいところがメリットです。
また、国家公務員法第75条には身分保障の規定があり、職員は法律または人事院規則に定める事由による場合でなければ、その意に反して降任や休職、免職されることはないと定められています。(※)つまり、職員は経営難などによって一方的に降任、解雇される心配がなく、安定して働くことが可能です。
なお地方公務員も地方公務員制度に基づく身分保障があり、職員は地方公務員で定める事由による場合以外は、本人の意に反して降任、休職または免職されることはないと定めています。(※)
公務員医師は基本的に年1回昇給があり、年2回ボーナス(期末・勤勉手当)が支給されます。民間の場合、経営状況に応じて昇給が見送られたり、ボーナスがカットされたりすることもありますが、公務員医師ならそういった心配はないでしょう。
また諸手当も充実しており、扶養手当や地域手当のほか、住居手当や初任給調整整手当、通勤手当、特殊勤務手当などが基本給とは別に支給されます。
さらに妊娠や子育て、介護などと仕事を両立するための支援制度や、海外研修の費用助成、学会の参加費の補助など各種制度や支援が充実しているところも公務員医師ならではの魅力です。
公務員の勤務時間や休暇は、法律や条例によって定められています。国家公務員の場合、1週間あたり38時間45分、1日7時間45分が基本となっており、時間外勤務についても月100時間未満、年720時間以下が上限です。(※)
さらに10日以上の年次休暇を使える職員については、年間の休暇使用計画書を作成の上、年5日以上使えるようにする配慮を行っています。
一方、地方公務員の勤務時間は各自治体の条令によって定められていますが、おおむね国家公務員と同じです。長時間労働の是正にも積極的に取り組んでいる自治体が多く、年次休暇の取得促進にも熱心です。長時間に及ぶ残業や休日出勤を強いられないところは大きなメリットでしょう。
公務員医師は経験や勤続年数などに応じて明確なキャリアパスを築ける環境が整っています。
例えば公衆衛生医師(保健所等医師)の場合、臨床研修終了後、技師級からスタートして卒業後7年程度には主査級、12年程度で課長補佐級、15年程度で課長級、22年程度で次長級、そして部長級へとキャリアを積んでいくのが一般的です。(※)
キャリアパスは勤め先によって異なりますが、民間機関に比べると順調に待遇が向上していく傾向にあり、仕事のやりがいやワークライフバランスの充実につながります。
公務員医師になる場合、以下のデメリットに注意が必要です。
近年は民間企業でも副業可とするところが増えていますが、公務員は原則として副業を行うことができません。
国家公務員法第103条では、職員が商業や工業、金融業その他営利目的とする私企業を営むことを目的とする会社や団体の役員、顧問、評議員の職を兼ねたり、自ら営利企業を営んだりすることを禁じています。(※)
営利目的以外の団体であれば副業を行うことも可能ですが、そのためには内閣総理大臣およびその職員の所轄庁の長の許可が必要となるため、ハードルは高いでしょう。
雇用保険法第6条の6では、公務員は雇用保険の適用除外であると明記されています。(※)国家公務員および地方公務員は、前述のとおり特別な身分保障がなされているため、民間企業に勤務する人よりも身分が安定しているとみなされるためです。
また公務員に雇用保険法を適用する場合、国は退職手当と事業主として支払う雇用保険料を負担することになりますが、その財源となるのは国民の税金です。
国民に対して二重の負担を課す結果になることから、公務員は雇用保険の適用を除外されています。以上の理由により公務員医師が退職したとしても、雇用保険に基づく失業給付を受けられない点に注意が必要です。
公務員医師は勤続年数や年齢によって一定の評価を得られる一方、能力や技術による特別な評価を受けにくい傾向があります。高い知識、技術、経験を有していても、一定の勤続年数、年齢にならないと役職を積めないため、若いうちは不満を抱くかもしれません。
公務員医師の勤務時間や働き方は、国や自治体が決めたルールに基づいています。民間機関の場合、交渉次第で柔軟に勤務時間や働き方を変えることが可能ですが、公務員医師は融通が利きにくく、決まった勤務時間、働き方を強いられる傾向があります。
公務員医師は民間機関に比べると、収入や地位が安定しているところがメリットです。各種手当や支援制度などの福利厚生も充実しているため、待遇の良いところで働きたいという人に適しています。
その一方で、副業ができない、雇用保険に加入できないなど、いくつか注意しなければならない点もあります。公務員医師を目指すかどうか決めるときは、自分がどのような医師を目指したいのか、何を重視したいのかといったキャリアプランを明確にし慎重に検討しましょう。
医師は公務員になる選択肢以外にもさまざまな働き方が可能なため、民間機関の求人をチェックして情報収集するのも有効な手段のひとつです。
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