クリニックや診療所といった開業医が運営する病院は、地域の医療を支える大切な存在です。しかし、地域に貢献するためには収入を得て適切に運営していく必要があります。収入がなければ、廃院せざるを得なくなってしまうからです。
この記事では開業医の収入について、平均額や他の医師との収入の比較の他、収入を高める仕組みなどについて解説します。
勤務医は、勤務先の病院やクリニックから支払われる給与が収入です。一方、開業医は事業の収益から従業員への給与、医薬品費などの医業・介護費用を引いた金額が収入になります。
厚生労働省が発表した「第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告-令和3年実施-」によれば、開業医(個人・入院診療収益なし)の年間の平均医業収益は約8,214万円でした。この医業収益から従業員への給与をはじめとした医業・介護費用を引いた金額である約2,491万円が開業医の平均年収となっています。(※)
なお、全体の収益に対して保険診療による収益は約7,252万円と、医業収益全体の89.0%を占めています。
一般的に開業医の収益は、保険診療と自由診療で構成されますが、ここでは開業医の収益のほとんどを占めている保険診療の仕組みについて解説します。
病院は治療を行った後、患者から診療報酬の一部を受け取ります。残りの報酬は社会保険診療報酬支払基金もしくは国民健康保険団体連合会という審査支払機関に請求します。審査支払機関や健康保険組合などの保険者による審査を経て、残りの報酬が支払われるという仕組みです。
診療報酬を請求する際は診療報酬算定のルールに則らなければなりません。請求が漏れる、要件に不備があって算定ができないといったことがないように、ルールをしっかりと把握しておく必要があります。
厚生労働省「第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告-令和3年実施-」の発表によると、開業医の平均収益と保険診療による収益は次のとおりです。(※)
診療科目 | 収益(千円) | 保険診療による収益(千円) | 収益に占める保険診療の割合 | 収入(損益差額)(千円) |
内科 | 69,267 | 61,234 | 89.1% | 20,513 |
小児科 | 68,241 | 44,004 | 65.6% | 21,921 |
精神科 | 153,079 | 142,024 | 93.3% | 54,213 |
外科 | 85,426 | 81,291 | 95.8% | 16,558 |
整形外科 | 110.928 | 92.659 | 83.9% | 24,870 |
産婦人科 | 108,48 | 80,260 | 74.3% | 22,999 |
眼科 | 98,185 | 92,294 | 94.4% | 30,533 |
耳鼻咽喉科 | 76,018 | 72,241 | 96.7% | 28,825 |
皮膚科 | 90,017 | 77,508 | 86.4% | 33,078 |
その他 | 87,687 | 84,569 | 96.9% | 27,105 |
上記の表のとおり、最も収入が高かったのは精神科でした。開業医(個人・入院診療収益なし)の平均損益差額が約2,491万円だったことを踏まえると、内科、小児科、外科、整形外科、産婦人科は平均を下回っており、診療科目によっても収入に差があることが分かります。
厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」によれば、10人以上の常用労働者を雇用している病院における40歳以上の医師の年収(ボーナスなどを含む)は次のとおりです。(※)
年齢 | 平均年収 |
40歳~44歳 | 約1,478万円 |
45歳~49歳 | 約1,655万円 |
50歳~54歳 | 約1,908万円 |
55歳~59歳 | 約1,701万円 |
60歳~64歳 | 約1,833万円 |
65歳~69歳 | 約1,783万円 |
70歳以上~ | 約1,607万円 |
開業医の平均収入が約2,491万円とすると、40代の医師の平均年収よりも約1,000万円も高くなっています。
開業医の収入は医師全体の平均年収よりも高い傾向にあります。開業医の収入に影響を与えるのが診療報酬です。
開業医の収入は次のような計算でおおまかに算出できます。
患者単価は診療報酬点数によって決められます。診療報酬点数とは患者への医療行為の対価が記された価格表といえるでしょう。
診療報酬は原則2年に1回改定されます。診療報酬点数が引き下げられると患者単価も下がります。そのため、収入をキープするためには患者の数を増やさなければなりません。一方、診療報酬が引き上げられれば、患者の数はそのままでも収入を維持できます。
なお、診療報酬の改定は診療報酬点数が引き下げ、もしくは引き上げられるだけではありません。診療報酬の改定によって請求の際の要件が変わることがあります。例えば改定前は請求できていた診療が、改定後には請求できないケースもあります。
このように診療報酬の改定は開業医の収入に大きな影響を及ぼすため、診療報酬の改定の動向をチェックしておくことが大切です。
開業医の収益の仕組みは患者数と患者単価が関係しています。そのため、開業医の収益を上げるには患者数を増やす、患者単価を上げるといった取り組みが必要です。
患者数を増やすことで開業医としての収益増加につながります。患者数を増やす方法として、例えば以下が挙げられます。
患者へのアピールができていない場合は、宣伝方法を見直してみましょう。例えば、ホームページを作成して自院の情報を発信したり、SNSを活用して院内の様子などを発信したりして患者へアピールするのもおすすめです。
自院と競合の病院を比較することで、自院の特色を把握できます。自院の悪い点は改善し、良い点を魅力として打ち出すことで競合の病院との差別化につながります。他院と比較する際は診療技術、人的サービス、施設といったポイントに注目しましょう。
人的サービスを比較するのであれば、例えば以下のような項目が挙げられます。
問診表にアンケート欄を用意して患者の声を確認するのも効果的です。受付の対応やプライバシーへの配慮について、患者の生の声を吸い上げて反映しましょう。
他の病院や介護施設と連携することで、患者数の増加が期待できます。他の病院や介護施設に患者を紹介する、逆に患者を紹介してもらうという仕組みをつくることで、患者数の増加につながります。
既存の患者を対象にメールなどで情報を発信することも、患者数の増加に効果的です。例えば、インフルエンザの予防接種時期になったらメールを配信して、来院を促すのもよいでしょう。
定期的に情報を発信することで、クリニックや診療所に通院しなくなった患者も来院する可能性があります。
患者単価を上げるには次の方法が挙げられます。
それぞれの方法について解説します。
患者一人当たりの診療報酬を上げることで、クリニックや診療所の収益を引き上げることが可能です。例えば、保険診療の収入を上げるのであれば、治療の付加や価値を高めるために、高度医療を導入するという方法が挙げられます。
一方、自由診療を導入することで保険診療外の報酬が高められます。自由診療の一例は次のとおりです。
診療報酬の請求漏れの減少は患者単価を上げる施策の中でも、すぐに取り組める施策です。診療報酬の請求漏れが発生してしまう原因は、スタッフの知識不足や、コミュニケーション不足の他、カルテの不備や入力時のミスなどがあります。スタッフの基礎知識を向上させる、記述方法のルール化や入力作業の簡素化を図るといった対策をし、請求漏れを解消しましょう。
クリニックや診療所を運営していると未収金が発生するケースがあります。未収金は時間が経過していくと回収が難しくなってしまう傾向にあります。
未収金が発生してしまうのは、患者側の問題だけではありません。提供された医療に患者が満足していない場合、料金を支払いたくないと考えてしまう可能性もあります。そのため、何故提供する医療が患者にとって重要かを丁寧に伝えて納得してもらいましょう。また、過去に滞納している未収金のリスクが高い患者の情報を正しく管理することも必要です。その他にも、回収のために戸別訪問を実施したり、カード決済を導入して支払いがしやすいようにするといった対策もおすすめです。
なお、自治体では国民健康保険一部負担金減免制度として、医療費の支払が困難な世帯の医療費自己負担額を減免、猶予する制度があります。(※)患者が医療費の支払いが難しい場合は、このような制度を案内してみましょう。
患者にあった適切な医療を提供することも、患者単価の引き上げにつながります。例えば、定期的な血液検査が必要な患者に対し、患者の経済状況的に検査を勧めにくいケースもあるかもしれません。しかし、患者の健康を管理していくためには、適切な医療の提供が必要です。そのため、費用だけでなく、医療の必要性をしっかりと伝えて適切な医療を提供するようにしましょう。
開業医の収益は患者数や患者単価を増やすことで引き上げられます。しかし、収入は収益から費用を差し引いた額です。そのため、開業医の収入を上げるにはコスト管理も重要です。
開業医のコストを削減するには、次の2つの方法が挙げられます。
人件費を削減するには、業務を見直してシステム化やIT化できる業務を洗い出しましょう。例えば予約をインターネットで受け付けるようにすることで、予約対応業務を簡略化できます。また、精算に自動精算機を導入することで精算業務にかける時間を減らせます。このように一部の業務をシステム化、IT化することで業務を効率化でき、時間外労働減少による人件費の削減が期待できるでしょう。
業務を効率化するという点ではシステム化やIT化だけでなく、整理整頓も効果的です。保管場所を明確にして整理整頓を徹底することで、物や書類を探す時間を短縮して効率的に業務を進められます。
経費の削減方法は次のとおりです。
医薬品や診療にかかわる材料の仕入単価を適正化することで費用を削減できます。長く開業医としてクリニックや診療所を経営していると、長年取引をしている卸業者から医薬品などを仕入れているかもしれません。その場合、市場価格に合った適正な価格で仕入れられているかを確認しましょう。市場価格よりも高く仕入れていた場合、卸業者と交渉することで、仕入単価を下げられる可能性があります。
紙や電気、水道の使用を抑えることで、費用の削減が可能です。例えば、ペーパーレス化を促進させて、これまで紙ベースで保管していたものを電子データとして保管するよう取り組むだけで、コピー用紙代の削減につながります。また、冷房の温度設定を1度高くすることで電気代が約13%削減でき、暖房の温度設定を1度低くすると約10%の電気代が削減可能です。(※)
もしアウトソーシングしている業務があれば、その実施状況を確認・見直すことで、委託費用を削減できます。例えば、医療事務をアウトソーシングしている場合、契約更新時に委託内容を見直して、不要な業務があれば契約を改めましょう。
また、クリニックや診療所の中には、清掃業務を専門業者に委託しているケースもあります。患者に清潔な環境を提供することはクリニックや診療所にとっては重要です。しかし、すでに不要となった場所を清掃の対象としているケースもあるため、契約更新時に内容を見直して、適切な契約に改めることが大切です。例として、職員だけが使用するスペースまで清掃しているのであれば、清掃する場所を患者が利用するスペースに制限することで、委託費用を抑えられる可能性があります。
開業医の収入は事業の収益から費用を引いた額です。これに基づくと開業医の平均年収は約2,491万円ですが、内科、小児科、外科などの開業医は2,491万円という平均年収を下回っています。しかし、いずれの開業医も他の医師と比べると年収が高い傾向にあります。
開業医の収入は診療報酬点数に大きく影響されるため、2年に1度の改定内容をしっかりと把握しておくことが大切です。また、患者数と患者単価を増やすことで、開業医の収益を上げることができます。患者数を増やすためには他院との差別化や連携、患者への適切な情報提供に取り組みましょう。一方、患者単価は診療報酬を上げる、診療報酬請求漏れを減らすといった対策を講じることで引き上げられます。
収益を上げるだけでなく支出を抑えることも、開業医の収入アップを考える上では重要です。業務の効率化や、アウトソーシング費用の見直しは支出の削減のために有効な手段です。ペーパーレス化や節電によっても支出を抑えられるでしょう。
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