医師のワークライフバランスと若手時代にやっておくべきこと 若手医師キャリア座談会(後編)

目次
lemon(15年目男性医師/感染症専門)
500床以上の急性期総合病院勤務。妻は非医療者で子ども2人。基本的に定時退勤を目指すが、時間外に海外との会議なども行う。
あらた(10年目男性医師/呼吸器外科)
500床以上の大学病院勤務。妻は非医療者で子ども2人。帰宅後は子供たちの入浴と寝かしつけを担当。
サン(12年目女性医師/内科系専門)
800床以上の急性期総合病院勤務。夫は非医療者で子ども2人。子供たちのお迎えがあるため定時退勤。
中堅医師からみた、若手医師のベストな働き方
――今どきの若手医師の望むワークライフバランスは、色々と経験してきた先生達からすると「難しい部分があるかもしれない」と思えることもあるのかなと感じています。先生方は若手医師の働き方に対してどのように考えていらっしゃいますか?
lemon:若手(初期・後期研修・フェローあたり)の時期は、経験値を積むべきタイミングだと私自身は思いますね。そこで経験値を積んで、最終的にワークライフバランスが理想的な勤務条件のよい病院の常勤スタッフ枠に収まるのがよいのかな、なんて思います。そのため、若手の間はバランスが少し仕事に偏るのはやむを得ないとも考えているのですが、先生方はいかがでしょう?
サン:後期研修くらいまでの若手が、病棟受け持ちの勤務をしているタイミングでの定時上がりを習慣にすると、年次ごとに適切に得ていくべき経験値がやや不足してしまいそうなイメージはあります。若いうちの方が、経験を積むチャンスも失敗を大目に見てもらえる環境もあるため、少しくらいは病棟に残ることがあってもよいのかもしれません。
あらた:概ね同意見です。医師10年目で中堅に差し掛かる私は、正直なところ次のキャリアへの不安から「後期研修医のときにがんセンターなどでもっとガツガツやればよかった……」と今さら後悔することもあるくらいですよ。lemon先生の、「若手こそ経験を積むのが大事、それが後のよい条件につながる」というのは非常に理解できます。
そもそも、ライフワークバランスを考える前にまず「自分自身のキャリアの目標を見定める」ことが最重要だと思いますね。キャリアを決める分岐のタイミングでこれらの目標をたとえ仮にでも決めておかなかったために、永遠に隣の芝が青く見え続ける人も多いように思います。学会でオピニオンリーダーになるまで活躍したいのか、ある程度臨床を回せるようになりバランスのよい生活ができれば十分であると考えるのか、などの目標によって、どれほどの研鑽が必要かは個々に変わってくるのではないでしょうか。
lemon:やっぱり、初期研修や後期研修の頃の経験は何事にも代えがたいですし、多少無茶がきくのは若い世代だからこそなので、個人的には苦労は買ってでもとは思います。また、初期研修期間は守られてるけれども、後期研修やフェローはそうでもないという実情もありますから。初期研修期間をかなりゆるく過ごすと、後期研修で急に責任や負担が増え、耐えられなくなるパターンもあるのではないかなと心配しています。
若手から中堅へ、働き方の変化は?
――先生方ご自身の働き方は若手時代と今とでどのように変わりましたか?
lemon:自分は「男性は血尿がでたら、女性は生理が止まったら休んでよい」と言われる環境で育ちました。初期研修期間は自殺しないことを目標に限界ギリギリまで働いてました。当直―飲み会―当直―飲み会を繰り返しながら、2週間くらい過ごしたこともあります。
後期研修やフェローの期間は、自分が希望する専門研修ということもあり、年間のオンコールのファーストコールを同期と2人で割って、オール無給で対応してました。そういうもんだと思って割り切っていましたね。
スタッフになると、ファーストコールはフェローの先生が対応してくれるようになったので、フィジカル面のストレスは減りました。しかし、マネジメントや他部署とのやりとり、責任などは自ずと増えて、メンタル面のストレスは増えています。
サン:私は初期研修から後期研修1年目までの間、帰宅は夜遅く、かつ寝られない当直の回数も多いという多忙な毎日を過ごしていました。自ら入った環境でしたが、かなり限界がきていることを実感して、ライフステージの変化(結婚)を機に、多忙だった後期研修施設から途中で異動しました。
異動先で勤務が8時~18時+4回寝当直に変わってからは、身体も気持ちも楽に過ごせるようになり、学会発表も座学勉強も落ち着いてできるようになりました。また、移ってから十分な数の専門医の症例を集めることもできました。結局、自分のキャパオーバーの環境に身を置こうとしても誰も幸せにならなかったなと反省しています。やっぱり「後期研修や進路は自分の身の丈やライフプランに合うところをきちんと選ばないとダメ」とこの経験から強く思っています。
最終的な志望科は急変対応をあまりしない科のため、スタッフになった今はほぼ定時上がりが基本ですし、入職時にそのような常勤先を選びました。希望科そのものは学生時代から希望していた進路でしたが、スタッフの先生方の働き方などを見て、無理なく子育てをできそうだという予想があったのも、進路選択の岐路で重視しましたね。
あらた:私が入局する前までの医局は「若手は早上がりしない、土日は必ず担当患者を自分でみる」というスタイルでした。しかし、4年ぶりの入局者である私が入るタイミングで医局の方針が変更となり、土日は当番制、手術は術後管理オーダーが終わっていれば各自解散となりました。そのため、予測指示や申し送りをきちんとするチーム制で育ちましたね。初期研修・後期研修は、7時~19時勤務で人数もいたため、色々配慮されてホワイトだったと思います。
とはいえ失敗もありました。1人目の子供が生まれてすぐに県外出向の消化器外科研修が始まり、そこで幼い子供と妻と暮らす生活が途中で破綻しました。近隣の緊急を受けて緊急手術に22時近くまでかかる日も多く、土日も毎日回診が当たり前。慣れない土地での生活も非常に困難で、妻子が実家に帰らざるを得なくなりました。強制的に単身赴任状態となり、精神的にもきつかったですね。その反省を踏まえて、大学に戻り2人目が生まれるときは育児休業を申請しました。
当時のメジャー外科では、女性も出産の際に退職する事例もあったくらいで男性の育休は前例がなく、教授への相談は勇気が必要でした。教授との面談に向かう時に手に汗握っていたのを覚えてます。ただ、はじめは驚いた教授もよく理解して快く受け入れてくれました。 私が取得してから当院で、消化器外科や心臓血管外科などの他の外科系でも男性の育児休業を取得する人が出始めたため、新たな流れのきっかけになれたのかなと思っています。もちろん現場の業務調整次第ですが、これからも育休の取得が気兼ねなくできる医局であることを願っています。
――先生方それぞれ、若手時代は忙しい働き方をする期間があったことがよく分かりました。そして結局、スタッフになったからといって物理的な忙しさが格段に減るかといえばそうではなく、スタッフになる岐路で働き方を各々生き方に合わせて選択して、結果、現在のライフワークのバランスを取っている状況と言えそうですね。
また、サン先生の後期研修中の施設変更には驚きました。同じように研修をしんどいと感じている若手医師の方がいるかと思いますので、もう少しお話を聞かせてください。
サン:私の科は、セカンドキャリアとして選択される中堅の先生も多く、先生方のこれまでの多くの実績のある分野とは違うほうに進路変更しているのをたくさん見ています。ですから、特に若手であればあるほど「今の道から外れたらおしまいだ」というようなプレッシャーを感じている人もいるかもしれませんが、実際はそんなことは全くないと思っています。最大限周囲に配慮することは前提ではありますが、結婚・出産・病気などライフイベントで仕事の優先順位が変わることがあっても仕方ないと割り切ってしまってもよいのではないでしょうか。
多忙な中で環境を変える際のポイントは?
あらた:個人的には、忙しいからこそ見学や就活がむずかしく、環境を変えられず不満はあるけどずるずる続ける……という若手も多い印象です。忙しい中での次への活動のコツなどはありましたか?
サン:渦中にいると自分の環境を客観的に見られなくなると思います。私は非医療者の知り合いに相談をして、職場変更について社会人としての客観的な意見や自分自身の最優先事項の棚卸しなど色々踏まえて異動を決めました。異動を決めた後はそのまま年度末まで通常勤務を続けつつ、無理矢理に病院見学の時間を捻出しました。
本当に自分にとって大切なことであれば、なんとか時間は作るものですが、伴走者がいると心強いですよ。あらた先生も大学のキャリアマネジメント室を活用されていると話されていましたね。そういうところを探したり活用してみたりするのはよいかもしれません。
中堅医師から若手医師へのアドバイス
――最後に、プライベートとキャリアの狭間で様々な壁にぶつかりながらキャリアを進めてこられた先生方から、若手に向けてのアドバイスをお願いします。
lemon:私はワークもライフも同じ軸で考えており、この2つを分けて考えることは難しいと思っています。そのため、ワークライフバランスという考え方よりは、1つの軸の中にどう落としこんで生活していくかを考えるようにしています。
重要なものから優先していくのがよいのでしょうね。例えば自分自身は、子どものイベントに参加するのが大前提です。故に仕事を調整するかどうかを悩むこと自体がナンセンスという感じでしょうか。ただ、これも職場にマンパワーがあるからこそできる話だと思っています。自分は入職時、科に人がたくさんいる施設を選びました。例えスタッフ1人枠でよいポストが空いていても、入ってからの忙しさが予想できるのでアプライはしません。
若手の方にお伝えしたいのは、ある程度マンパワーがあるところに勤務すると、休みなどで色々融通が効きやすくなることですね。あとは、内科にしろ外科にしろ、チーム制なのか担当医制なのかは、職場選びのときに大事な点の1つだと思います!
あらた:5年後、10年後、あるいはその先でどのようになっていたいのかを考えてキャリアを進めるのがよいと思います。ただ、若いうちは決断するのにも現場の解像度が低いという問題点があるので、見学や勉強会に積極的に出席したり沢山の人と交流を持っておいたりすることは重要です。
キャリアの文脈では人気の陰りも言われる外科ですが、呼吸器外科の大学教授で胸腔ドレーン挿入のVRでクラウドファンディングを立ち上げて、そのまま資本金1億の会社CEOとなったニュースもありました。大学のキャリアとベンチャーがリアルにリンクしていることに感動したのを覚えています。外科は「つらい」「きつい」「未来がない」とばかり言われるので、外科を目指す若手にはそのような眩しいキャリアも知って欲しいなと思ってます。
サン:ライフイベントを全て見通すことは難しいですし、それによるキャリアの中断や変更はいつあるともしれません。しかし、自分の人生で求めるものが明確だと、どのように進んだとしても自分自身が納得できるものになると考えています。
なりたい自分の軸をもとに、ベストなキャリア選択を!
多忙な医師がキャリアを歩むうえで、ライフとキャリアのバランスについての悩みは尽きないのかもしれません。若手の先生方にはさまざまなキャリアや外の世界を知ったうえで、ケースバイケースの最適となるキャリアを歩んでもらいたいですね。色々なことを乗り越えてキャリアを歩んできた先生方のお話が、悩める若手医師たちにとって参考になるものだと嬉しいです。
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