医師のキャリアに海外留学は必要か?費用・手順・メリットと現実的な資金計画

目次
日本の病院で一般外科・乳腺外科として勤務しつつ博士号取得後のタイミングで渡米、現在は医師である夫と共にアメリカの同じ研究機関で勤務中。一児の母。
医師の海外留学とは? その目的と現状
医師の海外留学は、臨床留学、研究留学、公衆衛生系の大学院進学などが代表的ですが、今留学をしようか迷っている医師にとって実現しやすいのは、研究室への所属による研究留学でしょう。臨床留学には現地の医師免許取得が必要となることが多く、基本的には現地の研修医ポジションから再スタートになるため、準備とハードルが非常に高くなります。
一方、研究留学は比較的門戸が広く、大学や研究機関への直接応募が可能です。自分でリサーチを行い、メールやオンライン面談を通じてポジションを得る流れが主流となっています。コロナ禍以降、面談の多くがオンライン化したことで、渡航前の手続きは格段に容易になりました。
医師の海外留学のメリット・デメリット
海外留学に関して私が感じるメリットとデメリットは以下のとおりです。
メリット
- 高度な専門知識・技術の習得:世界最先端の医療現場や研究環境で学べる
- 国際的な人脈の形成:将来的な共同研究や学会参加につながるネットワーク
- 語学力・異文化対応力の向上:英語力を中心に、実践的な語学力が身につく
- キャリアの多様化:帰国後のアカデミア・企業・国際機関などの選択肢が広がる
デメリット
- 高額な費用:特に自費留学の場合は大きな経済的負担となる
- 家庭・職場への影響:家族帯同・単身赴任による負担、復職の難しさなど
- 国内での評価の違い:留学経験が全ての医療機関で評価されるとは限らない
研究環境で第一線の研究者たちと時間を共有できることは、筆者にとって何よりのメリットでした。特に国際学会では、画面越しにしか見たことのなかった有名研究者と直接議論する機会もあり、大きな刺激とモチベーションになりました。
一方、語学に関しては、専門用語を使った研究英語には比較的早く慣れましたが、保育園での先生とのカジュアルな日常英会話は、2年経った今でさえわからないことも多いです。
医師の海外留学にかかる費用と給与、留学に向けた資金計画
留学を計画するにあたり、最初にすべきは「目的の明確化」です。私の場合、国際的な視野とネットワークの構築が目的でしたが、人によってはキャリアや語学力の向上、家族の教育環境を重視する場合もあるでしょう。
準備段階では、希望する研究分野に強い研究室を探すことから始まり、語学スコアの取得、履歴書や志望動機書の準備、ビザ申請、住居や自家用車、医療保険の手配など、やるべきことが山のようにあります。語学については、研究室の場合、面談のみで評価されることもあり、TOEFLやIELTSのスコア提示が不要な場合もありますが、CV(履歴書)に書けるため、余裕があれば受験をしておくのもいいでしょう。
費用については非常に幅があります。
【米国への1年間の研究留学にかかる費用の目安】
支出項目 | 金額(年間) |
滞在費 | 500〜1,000万円 |
渡航費 | 10〜30万円 |
保険料 | 一人あたり30〜50万円 |
語学・試験費用 | 5〜15万円 |
上記の諸費用に加えて、大学院進学を伴う場合は学費も加わります。ただし、米国の大学院では給与を得ながら学ぶスタイルも多く、研究室によっては年収3〜6万ドル程度が支給されます。日本人の医師として、たとえ研究初心者であっても、自分のスキルに見合った待遇、給与を主張することは大切です。
なお、為替の影響も無視できません。近年は1ドル=150円前後で推移しており(2023〜2025年平均)、1,000万円は6万5,000ドルほどの価値しかありません。今後も為替相場が推移することを考慮し、極力現地通貨での給与を得ることが望ましいでしょう。
留学中の給与と待遇の実際
臨床留学では、現地の医師国家資格を取得して、病院で研修医として勤務することで「現地医師としての給与」を得ることができます。この場合、給与はむしろ日本より高くなるでしょう。ただし、多くの日本人医師が選ぶ「研究留学」では、給与や待遇の差が非常に大きく、注意が必要です。
医局からの派遣であれば、引き継ぎ案件で給与が出ることが多いでしょうし、日本の医局から給与支援が受けられる場合もあります。しかし、自分でポジションを探す場合には、無給から正規ポスドクやFacultyまで幅広いケースが存在します。ポスドク枠での採用であれば、NIH(米国国立衛生研究所)が定める最低年収の基準があり、本来はそれ以上の待遇を主張することが望ましいです。面接で採用が決まったら、遠慮せずに待遇について交渉することが重要です。逆にきちんと主張しなければ、無給採用の可能性もあり、注意が必要です。
交渉の前に、そもそもその報酬がどのような形態かを確認することも大切です。たとえば、Salary(通常の給与。臨床医や常勤職に支払われるベースサラリー)なのか、Stipend(スタイペンド:ポスドクや大学院生などに支給される、生活費補助的な意味合いのある報酬)なのかによって、待遇や生活設計は大きく変わります。この雇用形態の違いで、手取りだけでなく、使える医療保険の有無や掛け金額、教職員用宿舎の利用の可否、納税の際の税率などが異なります。
費用を貯めるための現実的な資金計画
留学費用を準備するには、長期的な視点と具体的な行動が必要です。非常に残念ながら、円の価値が相対的に低い昨今、まずは資金計画です。「いつ、何年間行くか」を考え、具体的にイメージしてみてください。
博士号や専門医を取得前の若い時期、医師のキャリアも子育てもひと段落ついた頃、定年を機会になど、様々な世代の医師が留学されています。バイリンガルを目指し、子供が10歳前後で2−3年なども家族にとって良い機会となるでしょう。
脱線しましたが、考えていただきたいのは、留学まで後何年あるかということです。例えば10年以上先の話であれば、留学予定地の通貨で外貨預金はどうでしょうか?外貨預金は元本割れのリスクで嫌われますが、その通貨、絶対使うものなら話が違います。もし年利5%で10年貯めた場合、税金を差し引いても1.5倍になることが見込めるため、長期的な視点で早めに行動をすることの大切さが実感できると思います。
【資金計画の種類】
- 留学先での現地通過給与の有無 給与を辞退してより高名な施設を選ぶのも策だが、本来は労働の対価として正当な給与を要求すべき。
- 奨学金・助成金の活用 科研費や財団、各専門学会の制度など。ただし年数の制限があったり、手持ちの研究がないと難しい現状。
- 支出管理と貯金 物価の低い日本で頑張っても限界あり。余剰資金で早めに現地通貨で高い金利の定期預金はお勧め。その他投資など。
- 追加収入 スポットバイトや非常勤勤務を活用し、留学資金として別途積立や定期預金など。
アメリカの物価について
「アメリカではラーメン1杯2,000円」とよく言われますが、それは安くて微妙なものの話です。日本のチェーン店と同じレベルの味を求めるなら15ドル以上が相場で、そこに税・チップ(20%前後)が加わり、1杯3,000円以上が当たり前です。定食屋や普通のレストランなら1人25ドル以上=ランチ5,000円も珍しくありません。
自炊をすれば節約にはなりますが、キャベツ1玉800円、卵1パック1,000円という物価では、日本のようにはいきません。地域差はあるものの、生活費の桁が一つ違うのは間違いありません。
特に家族連れでの留学では出費が大幅に増えます。部屋数の多い間取りが必要なため家賃は月3,000ドル以上。さらに車は必須で、保育園代も全額自費負担です。私たちの場合、保育園代だけで月30〜40万円が消えていきました。
加えて、入園も簡単ではなく、渡米後即入園先はあり得ません。待機リストに入ってから4ヶ月後にようやく入園できましたが、この待機期間はあくまで平均以下でラッキーだった様です。それまでの間にシッターを雇えば、さらに高額な出費になります。渡米初期に主婦・主夫がいない場合、親族に一時帯同してもらうか、高額な保育サポートを使うかの二択になります。
私たちが利用していた園は、地域の平均的な価格帯でした。
- 0歳児:2,500ドル/月
- 1歳児:2,100ドル/月
- 2歳児:1,800ドル/月
ここにランチ代(1食8ドル)や課内プログラム(例:サッカー、シーズンごとに250ドル)などが追加されていきます。
ただし、小学校に進学すれば、公立校なら学費は無料です。
我が家(夫婦共働き+1-2歳児)の場合、今回の2年間の留学における総支出は約3,500万円です。節約のため自炊も相当頑張りましたが、家賃と保育園代の負担、円安の影響が想定以上でした。
なお今回の留学では、夫が私に合わせて同行するために年度末で一旦退職。出発前の半年間でスポット・非常勤バイトによりまとまった資金を貯めてくれました。改めて、医師バイトの稼働力の大きさを実感しています。
医師の海外留学は“挑戦する価値のある選択肢”
医師の海外留学は、専門性の強化、視野の拡大、人脈の形成など、得られるものが非常に多い経験です。一方で費用や手続き、家族やキャリアとの兼ね合いといった課題も無視できません。
それでも、自分で「行きたい」と思える理由があるならば、きっと留学は人生における大きな意味を持つでしょう。現地での生活を心から楽しめるように、無理のない資金計画と準備を整えた上で、自分の意思で切り拓くキャリアとして前向きに挑戦してほしいと思います。
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